▼ 長曾我部

ちょ、チカちゃん、出演料どこに払えばいい?

そろそろ寝ようかとベッドを振り返ると枕元に置いてあった携帯の新着を知らせるランプが光る。なんつータイミングだ。時計を見上げると午前2時を少し回ったところで、外からも内からも物音はひとつとしてしない。慣れた手つきでぱかりと開いた携帯にはあいつの名前。そして決定ボタンを押していけばその文章だ。
は?出演料?
てかその呼び方やめろっつってんだろーが。その生温いようなくすぐったさにガラにもなく口元が緩んでしまった自分を叱責する。さてと、と指先でちいせぇボタンをどのように押そうか少しためらう。とりあえず誰のだよと当たり障りのない質問を記入して送信した。携帯を枕元に戻して部屋の電気を消す。カーテンを引いてるせいもありすぐに真っ暗になる室内にまたもやそのランプは存在を主張するように光る。

チカちゃんのに決まってんじゃん!

ああそうかよ、なら直接俺の財布にでも入れればいいんじゃねーのと打つために動かした親指を止める。そんなメールを送れば怒られるに決まってんだ。仕方なく、眠気でぼんやりしてくる頭を懸命に動かして、俺なんかに出演したっけかと返信した。

携帯を触るせいで未だ慣れない暗闇の中にぼんやりと白い天井が浮かんでくる。もう少しで船を漕ぎそうになったとき、やはり同じようにランプは点った。

夢だよ、夢にチカちゃん出てきたの。しかも2回連続で!これって愛だよね

今度こそ自分でも気持ち悪いほどに笑ってしまった。なんだこいつ、ネタか?ネタなのか?お前がやると可愛すぎんだろ。出演料なんかいいから代わりに電話してこい。いやむしろさせろ。最後にこいつに触れたのは人差し指だったろうか、それとも小指だったろうかと途方もないことを考えて、ひどくその温もりが恋しくなった。次会えるのは蒸し暑さに舌打ちしたくなる頃だろう。そう考えると今この瞬間にこいつの声を聞いてしまうのはなんだかひどく残酷なことのように思えた。こんな俺を意気地なしだって笑ってくれ。

不意に漏れたあくびをかみ殺すと、もう夜も遅いことを改めて思い出した。バカなこと言ってねえで早く寝ろ、と打って決定ボタンを押す。しかし少し躊躇してから最後におやすみと付け足して送信した。
最後のおやすみっつーのはあれだ、愛してるっつーことだ、な?


遠距離恋愛のすすめ
(彼女もきっと俺と同じように携帯を抱いて眠る)
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