▼ シルバー

※HGSSライバル
ちゅ、と可愛らしい音を立てて離れた彼の唇が視界に入る。わたしは目を開けたまま、それを見ていた。なんだったんだろう、今のは。
まるで息を吸うくらい造作もない行為で、本当に行われたのかどうかさえ瞬きをすると曖昧になってしまいそうな、それは、

「え …な、に?」
「間抜けな顔だな」

いつもどおりの憎まれ口なのに嘲笑さえ浮かんでいない、ただの仏頂面に見降ろされる。追いかけて顔を上げるとやっぱりその唇が目についた。わたしは今、その唇に本当に触れたのだろうか?

「あ、 キス、した?」

指に力を入れるとなにかを握りしめていた。視線をさげると彼の服の裾を皺になるくらい掴んでいて、今度こそ疑問符が飛ぶ。どうしてこんなことになったんだっけ?なんでキスしたんだっけ?っていうか今ほんとうにキスしたんだっけ?

「した」

短く吐き捨てる声に顔を上げるともう一度唇に触れるぬくもりがある。今度は下唇に軽く噛みつかれたから、脳裏に甘い刺激が走ったから、自分でもわかるくらい頬が熱くなった。目をぎゅっと瞑って逃げてしまいたいのに、どうしてなの、瞳を反らすことを赦されないようなその視線は。

「バトルのときの自信満々な顔はムカつくから嫌いなんだ」
「は、 …え?」
「だからたまに見る、今みたいな間抜けな顔は悪くない。俺のことを意識してるようで、」

いい気分だ、そう言ってにい、と今日初めての彼らしいニヒルな笑みに、不覚にも胸が高鳴ってしまった。ああどうしよう、わたしは彼を、


くろいまなざし
(逃げることは許されない)
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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