▼ レイヴン

「名前ちゃんっていうの?おっさん、レイヴン!よろしくねえ」

なにが嬉しいのかわからないけど、ケーブ・モック大森林で出会った怪しいおじさんはわたしにそう言って笑いかけた。人懐っこいその笑顔に、つられてこっちまで口元が緩んでしまって、ああ、今思うとその瞬間にもう、好きになっていたのかもしれない。

「いやまさか名前が年上好みだったとはな」
「年上ってレベルじゃないわよ、あれはおっさんなのよ!名前、あんた目ぇ覚ましなさいよ?!」
「ダメですよ、リタ!恋愛に年齢は関係ないんです…!」
「それにしてもレイヴンのどこがいいの?」

話題の中心人物がいないからって好き放題言うメンバーに背を向けたまま、手元の本に集中する。いや、集中するフリをする、かな。わたしがはっきりそう言ったわけじゃないのになんかそういうことになってるし(なんでバレたの?いつバレたの?)。
最後のカロルの言葉を聞くとエステルが嬉しそうに反応した(好きよねこういう話題)。

「私も聞きたかったんです!名前は具体的にレイヴンのどこが好きなんです?」

肩越しに覗き込まれて、その柔らかな桃色の髪が少し頬に触れた。いつだったかわたしもこんな可愛い髪がよかったななんて考えたなあとぼんやり思う。返事をしないと不思議そうに名前を呼ばれる。うーん、本に集中してるフリは効いてないみたいだ。

「あのねエステル、わたしレイヴンのことが好きだなんて一言も言ってないと思うんだけど」
「そうなんです?でも好きですよね?」
「エステルにまでバレてんだから今さら逃げようったってそうは行かねえぞー」

後ろから茶化すような間延びしたユーリの声が飛ぶ。こぶしを握りしめてなんとか耐え(ちょ、眉がぴくぴくしてるの自分でもわかるから!)、エステルには作った笑顔を向けた。

「エステルはどうして、わたしが彼のことを好きだって思ったの?」

わたしの質問にエステルはきょとんとしてみせた。そんな簡単な質問をされるとは思わなかった、まさにそんな表情で。少しの間、言葉を探すように遠のいていたエステルの視線がわたしに戻って来て、瞳が柔らかく細められる。

「名前がレイヴンを見てるときって、とっても優しい顔をしてるんです」

だからそうなんだと思いました、とエステルは最後を締めくくった。それと同時に宿屋の扉が開いて、だるそうな顔をしたままのレイヴンが入って来る。わたしを取り囲むようにして座っている面々を見ると、僅かに小首を傾げた。

「なになに?家族会議中だった?」
「あーもう、なんで入って来るのよタイミング悪いわね!まだ具体的にってやつ聞いてないわよ!」

目ぇ覚ませとか言ってたのにやっぱりリタも女の子なんだね、こういう話題にちょっとは興味あるみたい。
わたしはこれ幸いと本に再度集中する。何事もなかったかのようにするわたしに、エステルは些か残念そうにして離れて行ってしまった。そしてファイアーボールでも発動させそうなリタを連れて出て行った。続いてなにを思ったのかユーリもカロルを連れて散歩だなんだ言いながら出て行ってしまった(え、ちょ、なんだその最後のしてやったりみたいな顔は)。

「あり?なんでみんな出てっちゃうの?」

みんなが出て行った扉の方を見やりながら、レイヴンが自然な動作で隣りに座った。ソファが少しだけ軋む音に、柄にもなく緊張した。

「なんか盛り上がってたねえ、なんの話してたの?」
「わたしは別に…みんなが勝手に盛り上がってただけよ」
「ふうん、…リタっちの言ってた具体的にってやつは?」

ああ、具体的にわたしがレイヴンのどこを好きかってやつね。とは言えず、無言を返答とする。応えないわたしをじとっと見ていたけれど、しばらくするとつまらなさそうにソファにもたれかかってしまった。視界の端に見える喉仏に不覚にも胸がドクリとした。
具体的にわたしがレイヴンを好きなところ。…そういえば考えたことなかったなあ。好きと言えば今も思い出す。ケーブ・モック大森林でのあの出会い。にこっと笑ってわたしの名前を呼んだ、彼の、声。

「飄々としてるところ、遊び人なところ、しっかりしてないところ、おじさんなところ、鬱陶しいところ、…っていうか全部?」
「え、なにそれおっさんの嫌いなところ?」


反駁リテラシー
(その笑顔も声も、)
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -