▼ 伊達

夜中、暑苦しさで目を覚ます。左を振り向くとこっちに背を向けたままの政宗が見える。最近ずっとこうだよね。こっち向いてあわよくば腕枕、なんて最初だけかよ。それに最中、名前呼んでくれなくなったし。そろそろ潮時なのかもしれないなあ。無意識で唇を尖らせながら、暗闇の中エアコンのスイッチを手探りで押した。
わたしの一方的な片思いだった。当然政宗はわたしのことなんて知らなくて、ただただほんとうに、わたしが見てるだけ、の一方通行の恋。それでもよかった。いや、それでよかったのだ。政宗の隣りの子が何度コロコロ変わろうとも、わたしは目が合えば舞い上がって夕飯のおかずを奮発する、そんなあるのかないのかわかんないような存在でよかった。そしていつかはお互い離れ離れになって、違う人と違う道を歩んでいく。それでおしまい。なのに、なにがどう転んだのかわたしたちは出会ったし、引き寄せられるように愛を囁いた。
もちろん政宗が遊びの感覚でわたしと一緒にいたことも知ってる。それが今もなのはどうかはわからないけど。言葉を交わせたことが嬉しくて、名前を呼んでもらえたことがひどく切なくて、溢れ零れる好きをわたしは留めることができなかった。きっと本気にさせてあげられる、わたしだけは政宗をほんとうに愛せる、だから政宗もわたしを見てくれる。そんな風に一瞬でも思ってしまった自分を殺したい。
そして今のこの状況を突き付けてやりたい。憧れは所詮憧れなのだ、履き違えるな、と。

部屋がほどよく冷えると蹴飛ばした毛布が恋しくなった。わたしも政宗も毛布を被っていない。ということはベッドの下だ。覗き込んで毛布を引っ張り上げて、先に政宗の身体にかけた。風邪でも引かれたら敵わない。皺を伸ばすように毛布を広げていたら、ふいにその手を掴まれてしまった。視線を辿ると少し細められた政宗の瞳とかち合う。

「あ、起こしちゃった?」
「 いや、」

掴まれた腕が解放される。無意識だったのかもしれない。頭を乱暴に掻きながら、すぐ近くに置かれていた携帯を開けると政宗はまだ夜中じゃねえかと呟いた。その間にせっせと毛布をかけ直す。それにしても少し冷えすぎじゃないかとエアコンのスイッチを自分の携帯で照らして見るとやっぱり普段の温度よりも3度低かった。通りで寒いわけだと設定温度を戻すと、それを見ていた政宗が悪い、最中暑かったからと少し照れたように言った。

「全然気付かなかった」
「まあ、他のことに気ぃ取られんのも癪だけどな」

「あの さ、」
「あ?」
「飽きた?」
「なにに」

途端に身体が震えた。自分でもわかる。寒さのせいなんかじゃない。肩を握りしめると爪が食いこんで、その痛みで幾らか冷静さを取り戻す。睡眠不足で瞼は今にもくっついてしまいそうなのに、どうしてか脳が言うことを聞かない。
わたしが答えを躊躇すると政宗はあーとかうーとか唸りながらごろんと寝返りをうって、未だ座り込んだままのわたしを見上げた。横に流れた乱れた髪から覗くおでこがなんだか可愛かった。

「そういう話がしたいのか」
「そうじゃないけど、」
「お前つまんねーもう連絡してくんなって、言えばいいのか」
「っだから、ちがっ…!」
「あっそ」
「わたしが捨てられたがってるような言い方も、しないで」

言いたいならそう言えばいいじゃない。掴みどころのない政宗に悔し涙が込み上げてくる。だけど泣いちゃだめだ。うざがられたくないし、うざがられるような女になり下がりたくない。
ちらりと盗み見ると政宗はわたしを凝視していた。なにも言わずにただ手を差し伸べられて頬を包まれる。その温かさに驚いてぎゅっと目を瞑ると押し出された涙が伝った。

「もう寝ろよ」
「わかってる、先に寝なよ」
「お前がそんなんじゃ俺がいつまでたっても眠れねー」
「 ごめ、」
「お前最近さ、俺の名前呼ばねえよな」
「そん、え、 …そうだっけ」
「そっちこそ飽きた?」
「飽きてない!」
「あっそ」

素っ気ない言葉の返事だったのに、政宗は瞳を細めて嬉しそうに笑った。そんな必死になることかよ、と言われたけど頬を撫でるその手がひどく優しかったから、わたしは今度こそ形振り構わず泣いた。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -