▼ 長曾我部

いそいそと水槽に手を突っ込む元親の背はどこか冷たい。普段、人よりも体温の高い彼の背が、だ。わたしはその背にずっとしがみつく。少なくともその行為が終わるまでは。自分がしなければならないとわかっていながら元親にそれを押し付ける自分への、戒めなのかもしれない。

「取れた?」
「取れたから土 用意してこい」

一緒に来てほしかったけどそんなこといえなかった。渋々わたしはベランダへ出て、土のこんもり入ったプランターを両手にスタンバイする。間もなくして元親はやって来た。手の平に跳ねることのない魚を乗せて。言い知れぬ吐き気が込み上げて来て顔を背ける。

「お前、飼う前とか飼ってるときとかは平気なくせになんで死んだらムリなんだよ」

わたしの腕が絡まっていても気にしない元親はせっせと土にその魚を埋める。濁った銀色の魚の目はどこも見ていないようだった。元親の指先が徐々に魚を消していく。やがてなにもなかったかのようなプランターは元々あった場所へとそっと置かれた。

魚は好きだ。ペットショップなんかで色とりどりの熱帯魚は綺麗だと思うし、最近は大型なのもいいなと思う。水槽は重たいけど。食べるのも比較的好きだ。肉よりはるかに美味しいと思う。だけど死んだのだけはごめんなのだ。それも自分の飼っていた魚限定で。買い物に行ってもふつうにビニール袋に氷ごとサンマだって詰めるし、海遊館に行ったときだってペンギンにアジあげるし。
でもほんとうに、自分が飼っていた魚の死が、怖い。なら飼うな、と元親は眉を顰めるけれどわたしがなかなかやめないからこうやって処理は彼の仕事になっていた。

土のついた手を合わせて目を瞑る元親に合わせて、わたしもそっと俯く。

「よし、じゃあ手洗って飯食うぞ」

わたしの手を引いて部屋の中へ入った元親は優しい。いつもこうだ。甘やかされている気がしてならない。まあ、実際そうなのだが。
目を瞑ると蘇る。白い腹を上向きにして口を開けたまま動かない魚を。ぶるりと身震いをして奥歯を噛んだ。

プ ラ ン タ ー バ リ ア

魚って死ぬとき、どんなことを考えるんだろう。学習能力と痛覚がないって聞くけど、ほんとうなのだろうか。指の間をじゃばじゃばと流れて行く水の先に、あの子がいるのだろうか。ねえ、わたしなにも知らないんだよ。なのにまたあの箱の中に閉じ込めようとして、死んだら土の中に閉じ込めようとして。
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