▼ 高瀬

気付いたらいつのまにか蝉の鳴き声はしなくなってた。
いつもあんなにうるさいうるさいと思ってたのに、はっきりと鳴きやんだ頃合いをわたしは知らない。夏休みも残り一桁となって、それがようやくわかってきたのかわたしは久しぶりに早起きをした。まあ早起きといっても、普段学校に行くためには当たり前の時間だけど。気温も割と高くはない。昼はどうなるのか知らないけど。
本屋にでも行くかな。そろそろ、読んでる漫画の発売日だった気がするし。立ち上がって鞄に携帯と財布だけ入れた。玄関のドアを開けたら、太陽の光りが一瞬だけギラリと牙を剥く。
アスファルトが冷たい気がする。けどやっぱり暑い。途中のコンビニに立ち寄って、水とリップを買った。夏休みだからってめちゃくちゃな生活してたから唇荒れてて痛いんだよね。新しいのとかよくわかんないから、どこにでも売ってるようなのをひとつ。水も水で、わたしメーカーとかよく知らないんだよね。だから一番安いやつ。
それをコンビニの前で呷ってたら高校男児の自転車の群れがこっちに向かってきた。どこかで見たことのある制服。ああなんだ、うちのか。

「あ、高瀬」

そのうちの1人にやっぱりわたしは見覚えがあった。呼ぶつもりもなかったのに唇からぽろりと零れた名前にそいつは反応して、わたしを見るなりにこーっとしておお!と手を上げた。

「お前いいもん飲んでんじゃん」
「水だよ?」
「今の俺からしたらすげえいいもん」
「飲む?」
「さんきゅー」

ひとくちふたくち飲んだだけのペットボトルを差し出すと高瀬は有難そうに飲んだ。確かにこめかみや首筋に汗が伝っていて暑そうなのがわかる。ぷはーという声と共に返ってきたペットボトルの中身は空気だけだった。

「うわ、ぜんぶ飲みやがった」
「わり。止まんなかった」

やっぱりにこーっと笑って、謝る気あるのかと思う。仕方ないのですぐ後ろに備え付けられていたにゴミ箱にボトルを捨てた。コンビニの入り口で先輩っぽい人がじゅんたーと呼んだので、高瀬は行ってしまった。じとりとその後ろ姿を睨んでももう遅い。本屋の途中に自販機あったっけなあ。

の終わり
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