▼ 土方十四郎

起きた瞬間から頭がずんずん重くて不快で不快で仕方なかったのに朝っぱらから食堂でマヨがないマヨがないとほざく副長がうるさくて余計いらいらして気付いたらその横っ面を思いっきり叩いてうるさいんですけどとすごんでしまった(なのに罪悪感がまるでない)(むしろ頭の痛みが増した気がする)。

おかげで朝食食べ損ねた。ずんずんからずきずきに変わったこめかみを指先で強く抑えながら仕事部屋へ向かう。
昨日は飲んでなんかいないはず。それとも記憶がぶっ飛ぶくらい飲んだのだろうか?いやいや、まさか。ああそういえば上司を殴ってしまった。切腹だろうかなんてことを考えながら昨日仕上げた書類をまとめる。これはあとで副長に判をもらわなければならない。こっちのは目を通して局長へ。あーあと山崎くんにあの件頼んで、

「聞いてんのか!」

そのときぐい、と肩を思いきり引かれて、正座していたわたしは尻もちをついて書類を零してしまった。ハラハラと紙の束が舞う向こうにいつも通り瞳孔の開いた副長が見える。
はああ?なんだこの人いきなり、声を出そうとしたらやっぱりこめかみがズキリと痛ん。なんなんだ、頭痛といいこの副長といい。

「お前何回呼んでも無視しやがって、そんなに俺が憎いか?!」
「はあ?」

やっと出た声は掠れていた。あ、ちょ、副長書類踏んでますよ。副長の足の下から書類を引っ張り出そうとするわたしが気に入らないらしい副長はわたしの両肩をこれまた強い力で掴んだ。だから痛いんだってば!頭痛と連動してるから!

「ちょっと離して下さい!書類が破れます!それにわたし、何回も呼ばれてません!」
「聞こえてないなら聞こえてないっていいやがれ!俺は仕方なしに謝りもしてやったんだぞ!」
「ムリなこと言わないで下さい!副長の謝罪は惜しい気もしますが!」

それよりいい加減に手を離してください。あなたの手がわたしの血を止めてるんじゃないですか。耳元でなんかドクドク聞こえるんです。これぜったい病気ですよ、頭痛の域越えてます。ああほらなんか熱いし、視界、が…


「っは!」

自分の声で目が覚めた気がする。少し汗ばんだ身体に不快感を覚えつつ、ゆっくりと起き上がると自分の部屋だった。敷かれた布団で、どうやら寝ていたらしい。いったいいつの間に。

「なにお前今の声」

すすす、と襖が開いて入って来たのは副長だった。手に、お盆に乗せられた小さな鍋が見える。副長はすぐにそれをわたしの枕元に置き、具合はどうかと聞いた。

「え、」
「だから具合は」
「ふつう、です、けど」
「ばか、お前熱あんだぞ。わかってねーのか」
「あ、 そうなんですか」

ひた、と自分の額に指先を当ててみる。確かに熱かった。ああ通りで。今朝の頭痛も頷けた。呆けるわたしをよそに、副長は鍋の蓋を開ける。もわっと湯気が立ち上る向こうに見えたのはお粥だった。

「食えるか。お前なんも食ってないだろ」
「ああ、はい。誰かさんがうるさかったので」
「いや、あると思ってたもんがなかったことが相当ショックで」
「 痛かったですか」
「あ、ああ…まあ、」
「すみません、わたし切腹ですかね」
「いや、俺も気付いてやれなくて悪かった、し、な…気にするな」

妙にしおらしい副長を尻目に頂いたお粥はおいしかった。手渡されたときはマヨネーズでも乗ってるかと思ったけど、そこはさすがに良心的で。ただ、ごちそうさまでしたといったときに、ほんの少し微笑んだその表情にまた熱が上がった気がした。

お前、
(なんか、かわいい な)
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