天葵


「葵さ、髪、伸びたよね」
「え?」

天馬の言う通り今の葵はずっと流していた前髪を切り、後ろの髪が少し伸びて毛先がカールしている。

「うん。伸ばしてみるのもいいかなーって思って。似合わない?」
「ううん、そんな事ないよ!少し大人っぽい感じ。だけどずっと同じ髪形だったから新鮮だなーって」
「うん…ちょっと、ね」
「?」

天馬が笑いながら言うと葵は少し照れたように笑った。

「黄名子ちゃんも、髪、長かったでしょ?」
「あ…」

葵の言葉に天馬の脳裏にはかつての仲間、黄名子の事が浮かんだ。
突然現れた不思議な子。
だけど実は自分の息子を守る為に時空を越えてこの時代にやってきた、強くて優しい女の子だった。

「黄名子ちゃんを見てたら髪長いのもいいかなーって思ったの。…私もあんな風に強くなりたいなって」
「…会いたいね、フェイと黄名子に」
「…うん…でもね、それだけじゃないの。髪を伸ばす理由」

しんみりした空気を断ち切るかのように葵はにっこりと微笑んで天馬に振り返った。

「?何なのさ」
「秘密ー!」
「えー?」

天馬の問いには答えず葵は走り出した。
天馬も慌てて葵の後を追いかけた。

――髪を伸ばすもう一つの理由。それはそうする事で天馬に追い付けるかなって思ったから。天馬はどんどん強くなる。きっとそのうち私の手の届かない所まで行ってしまうのだろう。だけどそんなのは嫌だ。だから私は少しでも大人っぽくなりたい。天馬に置いていかれないように。

「ねぇ、もう一つの理由って何ー?」
「だから秘密だってば!」

(全てはあなたの傍にいるため)


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