黄名子


(…やっぱり、緊張するやんね)

本来なら自分はこの時代にいない。
それでも自分がここに居るのはあの人に頼まれたからだ。

(本当に大丈夫なのかな…)

余計な混乱を避けるため、あの人が自分の記憶を雷門の人達に植え付けたらしい。
今から自分は『雷門のエースストライカー』だ。

黄名子は緊張を解すため大きく息を吸って吐いた。

――うん。大丈夫

黄名子は思いきってドアを開いた。

「ちーっす!!キャプテン、それに他の皆もお帰りなさーい!」


(…あの子だ)

写真を見ていたからあの子の姿は知っていた。
けれどそんな事は関係なしにすぐに判った。

(…綺麗な目をした子)

(確かにあの人には似てるやんね。けどうちには…せいぜい目元ぐらいかな)

第一印象はそんな感じだった。

自分の子供、と言われても、守って欲しい、と言われても、実際全然実感わかなかった。
だけど皆と、フェイとするサッカーは楽しかった。
フェイは強い子。
別に自分が守らなくても平気なんじゃないか、そう思った。

だけど、

『僕の親は僕を置いて出ていった』
『僕は1人ぼっちだ』

うちは全然、あの子の事をわかっていなかった。
あの子の孤独に気づいてあげれなかった。

その時決めたんだ。
あの子の事は、うちが守るって。


「黄名子ってフェイに甘いよね〜」
「え?」
「さっきも転んだフェイの事心配してたし…やっぱり黄名子ってフェイの事」
「ちょ…っ!!」

狩屋は面白いものを見つけたというようにニヤニヤと笑いながらフェイが隣にいるのにも関わらず黄名子をそうからかった。

「ち、違うやんね!確かにフェイは大切だけどそういうのじゃなくて…っ!」
「じゃあどういうの?」
「それは…」

黄名子が真っ直ぐとフェイを見つめるとフェイは息をつめた。

「…うちにとってフェイは、仲間で、大切な人で、それから――」

『――――、』

「え、何?最後の方聞き取れなかったんだけど…」
「…秘密、やんね」

黄名子がそう微笑むとフェイは少し困った顔をした。


――うちにとってフェイは、仲間で、大切な人で、それから――

『大切な、子供』

この子になら、自分の全てを懸けてもいい。
そう思った。


(だからってうちは絶対に死なないけどね!)

あの子の笑顔を守る為、未来を変えてみせるよ。


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