青春は夕日に向かって走るべし(月山国光)


「おい!なんで俺が正キーパーじゃないんだ!」
「うるさい」
「ぶっ!」

地球に戻った井吹は神童に宣言した通り、月山のサッカー部に入部した。
当然、井吹は正キーパーになれると思っていたのだが残念ながら月山の正キーパーは兵頭のまま。
納得のいかない井吹は部室で声を荒げるが南沢に投げられたタオルによってそれは強制終了させられた。

「何しやがんだ南沢!」
「このチームのキーパーは兵頭だ。どんなに喚こうがそれは変わらない」
「俺は銀河を救った、宇宙一のキーパーだぞ!ソウルだって使える!」
「あぁ、お前まだ知らないのか」
「は?」

南沢は近くにあった机をゴソゴソと漁ると白い封筒を取り出した。

「ほら、これ読んでみろ」
「…なんだよ、これ」
「いいから読めって」

南沢から押し付けられた封筒を渋々ながら井吹は開けた。
どうやらその手紙は少年サッカー協会の会長である豪炎寺からのものだったらしい。

「あー…と、アースイレブンの諸君へ。この度はーー…」

『アースイレブンの諸君へ。
この度はこの長い戦いを良くぞ勝ち抜いてくれた。地球を代表して、礼を言おう。
さて、サッカーの素晴らしさに気付いた諸君は地球でも各々の学校でサッカー部に入る者もいるだろう。サッカーを愛する者として、それはとても喜ばしいことだ。しかしそこで注意が1つある。それはサッカーをするに於いてーー…』

「ソウルの使用を禁止する、だぁ!?」

納得いかないというように手紙を引き千切る勢いで井吹が吠える。
南沢はそれをうっとおしそうに見ながら髪をかき上げた。

「つまり、だ。いくら銀河を救ったアースイレブンのキーパーでもソウルが使えないんじゃ兵頭に劣るのは当たり前だろ。」
「だからなんでソウルが使えないんだよ!」
「手紙をよく読め」

『ソウルを禁止する理由は、アースイレブンしかソウルを使えないからだ。同じ理由として天馬達にはミキシトランスも禁止している。しかし銀河を救った君達ならソウルがなくとも十分戦えるだろう。
君達の活躍を影ながら応援している。
豪炎寺修也』

「…この、ミキシトランスってなんだ?」
「…さぁな。ま、そういう訳だ。諦めろ」

天馬は井吹達には未来での戦いの事を教えていなかった。
しかし三国達からそれなりに話を聞いていた南沢はある程度までは知っていたがどうせ話しても信じられまい、と適当に暈した。
しかし井吹はそれどころではないのか、手紙を何回読み直している。
そうしていると柴田や一文字が部室にやってきた。

「お、井吹どうした。そんなに強く文を握りしめて。ソウルを禁止にでもされたか?」
「なんでわかったんだよ!」
「何、真か」

しかしそう言いながらも二人はあまり驚いた様子は見せない。
最初は南沢も首を傾げていたがすぐに、あぁ、と合点がいったようだった。

「そういや、今は公認されてるけど昔は化身も禁止されていたっけ」
「いかにも」

二人は並べて首を振る。
柴田と一文字も月山における数少ない化身使い。
今でこそその力を思う存分に発揮しているが化身を試合で使えるようになったのはここ2〜3年の事。
それ以前から二人は化身使いとなっていたが当時はまだ化身使いが少なかった事、その力の強大さ故、使用を禁止されていたのだった。

「しかしそのソウルというものは遺伝子に眠るものなのだろう?井吹がその力を振るえる日は遠そうだ」
「井吹よ、無念であるな!」

本当にそう思っているのかわからない口振りで声をあげて笑いながら二人はいう。
いくら裏があったとはいえ、嘗て素人だった井吹が日本代表に選ばれたのがよほど悔しかったのだろう。

「だが案ずるではないぞ!南沢のように、化身がなくとも我が月山国光の10番を背負えることが出来るのだ。井吹も南沢を見習って、これからも精進するのだぞ!」
「化身がなくても…?」

あっけらかんと笑いながら半ば無責任な言葉を井吹の肩を叩きながら言う柴田。
その言葉に井吹の肩がピクリと動いた。

「兵頭、勝負だ!」
「?よくわからないが承知した」
「わからねぇくせに受けるなよ!」

ちょうど月1の部長会議に出席していたせいで遅れてしまい、たった今部室の扉を開けた兵頭に声高らかに井吹が宣言する。
そしてよく事情を飲みこめてないまま井吹の宣戦布告を承諾してしまった兵頭に南沢がすかさず突っ込んだ。
仕方なく南沢は今までの経緯を簡単に話した。
すると兵頭はふむ、と少し唸った。

「確かに、化身がなくとも実力さえあればその者がフィールドに立つのが理だ。井吹よ、そこまで己に自信があるのなら、この兵頭司から正キーパーの座を奪ってみよ!」
「いいねぇ、やってやるよ!」

しかし勝手にレギュラーを決める勝負をすることは規律の厳しい月山に於いては禁止であった。
そういった事は監督の立会いをもとに行うのが常である。
しかし残念ながら監督は出張中。
そのため、勝負は明日へと持ちこされる事となった。


「いいのかよ、そんな簡単に受けあって」
「無論、実力が全てだからな。お主の時もそうだっただろう」

井吹は明日のために早速練習へ、他の者を連れてさっさとグランドへ駆けていった。
兵頭も勿論、明日のために、いや、日々の鍛錬として練習を始めるためにユニフォームに着替えていた。
南沢はそんな兵頭の大きな背中を手持ち無沙汰にぼんやりと見ていた。

「俺の時はぐちぐち言う奴らがうるさかったし、なんとしてでも雷門と戦いたかったからな」
「今回の話と何も変わらぬではないか」
「うるせ」
「それに案ずるではない」
「は?」
「あのような小童に月山のゴールをそうやすやすと譲れるほど、俗ボケはしておらぬ」
「ーーは、」

なんという自信だろうか。
あの銀河を救った井吹を小童呼ばわりするとは。

南沢は込み上げてくる笑いを咬み殺すのに必死だったが兵頭は何故南沢が肩を震わせているのかさっぱりわからないようだった。

「てか、アイツ、お前とタメだろ」

でも、やっぱりお前は頼りになる、月山国光の守護神だよ。

そう南沢が言ってやると、兵頭は小さく笑みを浮かべた。


そして次の日。
監督の立会いのもと、井吹と兵頭の月山の正キーパーを賭けた真剣勝負が始まろうとしていた。
勝負方法はストライカーが蹴ったボールを3本中、何本止められるかというごく単純なものだった。

「本来なら10番である南沢に頼む所だが…」
「確かに俺は月山のエースだ。だけど俺はテクニック派。パワー派じゃない。今回のようにキーパーの能力を問う勝負ならば化身使いの柴田や一文字が適任だ。そうですよね、監督」
「あぁ。南沢もそう言っている事だし…いいか?柴田、一文字」
「「承知!」」
「へ!誰が相手だろうと関係ねぇ。全部止めてやるよ」
「俺も、全力を尽くさせてもらうぞ」

両者とも、自信ありげに笑みを浮かべてみせる。
そして、いよいよ勝負が始まろうとしていた。

「いざ!勝負!」


結果から言うと、兵頭の圧勝だった。
化身シュートは井吹が思っていたよりもずっと強力だったのだ。
化身に対抗するにはそれ相応の力を。
化身を有している兵頭に対してソウルの力を禁止された井吹が劣るのは当然の事だった。

「やはり我が月山の正キーパーは兵頭だな」
「くそっ!」
「そう簡単に守護神の座は譲れぞ!…だが井吹よ。さすが銀河を救っただけあってなかなか良いものを持っている。これからも日々精進するが良い」
「だけどこれじゃあ神童と戦えねぇだろ!」
「神童?」
「なんだ、お前、あいつと仲良くなったのか?」

ギャーギャー喚く井吹を尻目に南沢がレジスタンスジャパンで試合した時にはあんなに仲悪かったのに、と呟く。
その言葉に反応して井吹がまた騒ぐ。

「別にそういう訳じゃねぇよ!俺はあいつに俺の実力を見せたいだけだ!」
「あっそ」

井吹が言っている言葉は宇宙に行く前とほぼ同じだが意味が違う。
そのことは井吹の帰ってきてからのチームへの姿勢を見ればよく分かる。
そのうえ、南沢も雷門から月山へ転校した身。
今まで味方だった相手と戦いたいという気持ちは分からなくもなかった。

「けど井吹。化身使いの兵頭がいる限りそれは難しいぞ。距離が距離だから簡単に練習試合とかも出来ねーし」
「ぐ…!いいぜ!その方が燃えるってもんだ!それに来年は兵頭もいないんだから俺が正キーパーだ!」
「は?」
「ん?」

兵頭と南沢が顔を見合わせる。
そして恐る恐るというようにゆっくりと井吹を指差した。

「お前、もしかしてコイツ3年だと思ってるのか?」
「だって南沢にタメ口だし、キャプテンだし、ガタイもいいし、3年だろ?」
「コイツ2年」
「……え?」
「だから、兵頭はお前と同い年だ。キャプテンの年ぐらい覚えておけ」
「は、はぁぁあ!?」

一応南沢の事は神童達から話を聞いていたらしく、年齢を知っていたらしい。
だがアースイレブンの時も月山でも敬語は使わなかったし、使われなかったのであまりそういう事を気にしていなかった。
そのせいもあって井吹はなんとなく兵頭は3年だと思っていたのだが、まさかこんな事になるとは。

「諦めるではない!正キーパーは無理でも、お前の実力なら控えには入れる」
「それじゃダメなんだよ!」

井吹の心からの叫びがグランドに虚しく響いた。


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青春は夕日に向かって走るべし
title by 『ポケットに拳銃』

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