たぶんずっと、きっともっと(天葵)


ーー…変わらないものなんて、ないんだよ

そう言っていたのは誰だっただろうか。
あれはーー確か、親戚のお姉さんだった。
そのお姉さんには幼馴染がいた。
その人は小さい時から野球をやっていて、お姉さんは中高共に野球部のマネージャーをして、いつもその人の事を応援していた。
2人が付き合うようになったのは自然の事だったらしい。
その時の私はまだ小さくて当時の事はよく覚えていないけれどお姉さんがいつも幸せそうに笑っていた事だけは覚えている。
だけど大学生になってから、事態は急変した。
大学生になってからも2人はまだ付き合っていたがお互いに忙しくて予定が合わなくなり、すれ違い、そのまま2人は別れてしまった。
結局、お姉さんが結婚した相手は、私の知らない、職場で会った人だった。
その時だった。
結婚式の時、こっそりと聞いたのだ。
どうして2人は別れてしまったのか、あんなに好き合っていたのにどうして、
するとお姉さんは泣きそうになりながら笑ったのだ。

変わらないものなんて、ないのだと。

自分も昔は、彼と付き合っている時はなんとなく、彼とこのまま結婚するのではないかと思っていたと。
だけど変わってしまったのだ。
私も、彼も。
今ではお互いにいい友達で、お互いに一緒にいる相手は違うけれど、それでも私達は幸せなんだと、幸せそうに、だけどどこか悲しそうに笑っていた。
その時の私はお姉さんの言葉の意味がよく分からなくて膨れていたけれど、お姉さんは大人になればわかると言っていた。
そんな事、わかりたくないと思った。
それから月日は経ち、今までそんな事をすっかり忘れていた。
なのに何故急に思い出したのか。
それはーー…

「葵ー?帰るよー?」
「天馬…」
「あれ、それ進路希望調査じゃん。そんなの見つめてどうしたの?」
「ーー…っ何でもない!帰ろ!」
「?うん」

全ては、この紙切れ1枚のせいだ。

「もう進路なんて早いよねー。まだ高校生になったばかりだよ」

項垂れながら天馬は言う。
確かに、中学の時は3年になってから紙を配られたけど、高校ではそうはいかないらしい。
まだまだ私達は高校2年生になったばかり。
急にそんな事を言われても困る。
勿論、自分の進路を決める事がどれだけ大切な事かはわかってる。
高校を決める時は近さと、友人達が多いという理由が大半だった。
しかし今回はそういう訳にはいかない。
例えそれがーー天馬と離れる事となったとしても。

「…天馬は決めてるの?進学先とか」
「んー、まだ何も。とりあえず、俺はサッカーやれればいいや」
「…天馬らしいね」
「葵は?なんか決めてるの?」
「私はーー…」
「…葵?」

足を止めた私につられて天馬も足を止める。
そして不思議そうに私の顔を下から覗き混んだ。
言わなくちゃいけない。
先延ばしにして辛い思いをするのは私だけじゃない。
そうわかっていても、なかなか口は開いてくれなかった。

「…どうしたの?」

優しく、宥めるように天馬が私の額に自分の額をコツンと当てた。
昔から、天馬にこの仕草をされると何故か安心してしまい、自分一人でこっそり抱えていたもの全部、天馬に話してしまった。
きっと今も、何か悟ったのだろう。
急かされた訳ではない。
それでもさっきまでのが嘘みたいに自然と口が開いた。

「あのね、天馬」
「うん」
「私ね、行きたい大学があるの」
「?うん」
「そこね、女子大なの」
「ーーー…」
「だからね、大学生になったらきっとこうして天馬と一緒に過ごす時間がすごく減る」
「…それが不安なの?」

不安…ううん、少し違う。
天馬と一緒にいれない事が不安なんじゃない。
これから先、きっと天馬は私以上に、サッカーを通して色んな人に会う。色んな世界を見る。
それはとても素敵な事。
羨ましくさえある。
だから私は怖いんだ。
そうやって、天馬が広い世界に旅立つ事によって、いつの間にか私の知らない天馬になっちゃうんじゃないかって。
そして私自身も天馬と会わないうちに天馬の知っている私じゃなくなるんじゃないかって。
その時私は、私達はーーこうして、今みたいに隣で、一緒に笑っていられるのだろうか。

脳裏にあの時のお姉さんの姿が、言葉が蘇る。

『変わらないものなんてない』

変わってしまったら、私達は一緒にいられないのかな。
こんなにもーー天馬が大好きなのに。

「天馬も、変わらないものなんてないと思う?」
「うん」
「え、」

あっけらかんと、だけど力強く肯定する天馬に思わず顔をあげる。
なんとなく、天馬は否定してくれる気がしたから。
しかしそこには見たことのない、少し大人びた表情をした天馬がいた。

「天…」
「葵は、変わる事が怖いの?」
「…うん」
「でもさ、今だって毎日色んな事が変わってる。俺のサッカーや葵を好きな気持ちだって、昨日より今日の方が、今日より明日の方が大きくなっている。葵は違うの?」

天馬……

「…彼女とサッカーって同列なの?」
「え、あ、えっとそれは…」

思わずジト目で天馬を見ると天馬は目に見えてあわあわとしだした。
そんな天馬の様子がおかしくて自然と笑顔が溢れる。
そしてそのまま私は天馬の肩にトン、と額を当てた。

「あ、葵?」
「もう、そんな慌てなくても大丈夫だって。…ちゃんと、わかってるから」
「……うん」

天馬はゆっくりと私の背中に腕を回した。
私もなんだか嬉しくなって天馬に応える。

ーー…あぁ、私はなんでこんな小さな事で悩んでたんだろう。

変わっていく事は悲しい事ばかりじゃない。
むしろ、変わらない毎日だなんてありえない。
だって私の天馬を想う気持ちだってーー…

「天馬」
「ん?」
「私も、天馬に負けないくらい大好きだからね!」

この気持ちだって、毎日大きくなっている。
そしてきっと、これからも。
私が満面の笑顔を浮かべながら言ってあげると一瞬の間を開けた後、天馬は真っ赤になった。

私達ならきっと離れても、お互いに変わったとしても大丈夫。
そんな気がした。


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たぶんずっと、きっともっと
title by 『ポケットに拳銃』

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