めろめろきゅん(瞬さく)
「剣城。…ちょっと、話あるんだけど」
「?」
ブラックルームで一汗かいた剣城にさくらが躊躇いがちに声をかける。
実質、諸事情によりあまり他のメンバーと違ってあまり一緒にいる事が出来なかった剣城にとってさくらにこう言われる事は新鮮でもあり、不思議でもあり、思わず目を見開いた。
全ての戦いが終わり、アースイレブンはGN号で地球への帰路をゆっくりと過ごしていた。
地球に帰れば当然の事ながら各々が地元へ帰ってしまう。
勿論、地球に着いてすぐは報道陣からの取材で少しは一緒にいれるかもしれないがゆっくりと話せる機会は今だけなのだ。
お互いがお互い、地球を、銀河を救うという重大な役目をを共にした、言わば戦友同士。
積もる話もあるだろうという事で静音が気をきかせて、1週間という長い時間をかけながらゆっくりと銀河を走っているのだった。
「…何か用か」
「ここじゃちょっと…後で剣城の部屋行っていい?」
「まぁ…」
「ありがと。それじゃ後でね」
さくらは目を忙しなく動かすと早口にそう言った。
そして剣城から了解を得るとパタパタと小走りで剣城の横を通りすぎる。
剣城はさくらの様子に首を傾げながらも汗を流すためにシャワー室へと足を向けた。
「剣城。…入っていい?」
「…あぁ」
控えめにドアをノックする音が聞こえる。
短い付き合いではあるがさくらはもっとハキハキした、言わば葵のような少女だと思っていたのだがなんだが今日は随分と様子が違う。
多分何か相談事でもあるのだろうとは思うが何故自分なのだろう。
そんな疑問が頭から離れなかったがさくらの言葉によってその答えが出た。
「剣城はどうやってララヤ女王に好きになってもらったの!?」
「……は?」
我ながら随分間抜けな声を出してしまったが。
「おい待て。なんだその質問」
「べ、別に特に理由はないのよ?ただちょっーと気になって…」
言葉とは裏腹に、さくらの瞳には好奇心というものはなかった。
むしろどちらかと言うと…
「恋愛相談なら空野達にしろ」
「ッ!」
剣城の推測は当たったらしい。
さくらの肩が面白いくらいに飛び跳ねる。
剣城は思わず大きなため息を吐いた。
「なんでよりによって俺に言うんだ」
「だって好葉は自分の事でいっぱいいっぱいだし、というか私がからかい…じゃなくて九坂の事相談にのってあげたいし、葵さんはなんかもう無自覚でキャプテンといい雰囲気だし。それに…」
「?」
「女王様ってくらいなんだからララヤ女王って女王様気質なんでしょ?」
「まぁ…」
確かにララヤは剣城が自身の父親に似ているという事でこちらに了承も得ずに連れて行かれたり、結婚しろと言われたりなど、それなりに、というよりかなりワガママを言われた覚えがある。
剣城はさくらの言葉を否定する事が出来なかった。
しかし何故そんな事を聞くのだろう。
正直、剣城は恋愛の話というものが苦手だった。
確かに告白された事がない訳ではなかったが剣城は恋愛よりもサッカーや兄の方が大切だったためいつも断っていた。
つまり、恋愛の話に免疫がないのだ。
正直葵などに丸投げしてしまいたい気持ちだがわざわざ頼ってきたさくらを無下にできるほど剣城は冷たい人間ではない。
剣城は椅子の背中に凭れかかると仕方なくさくらの話を聞く事にした。
「つまりさくらの好きな奴は俺様気質な奴なのか」
「う…」
ララヤの事を聞いたという事はつまりそういう事なのだろう。
するとやはりというか、さくらが気まずげに目線を反らしながらも隠してては仕方ないと思ったのか、頬を赤く染めながらコクンと頷いた。
そこで剣城は考える。
さくらの好きな奴とは十中八九、チームの奴だろう。
その中で俺様気質といえば…
「井吹」
「?」
「瞬木」
「!」
どうやら当たったらしい。
先ほどとは比べものにならないくらいさくらの頬に赤みがさす。
剣城は再び呆れ顔でため息を吐いた。
「だが俺は今の瞬木をよく知らない。ファラムで会って驚いたくらいだ」
「あ……」
だから相談にはのれないと暗に仄めかす。
ファラムにいた時も一応画面越しに試合の様子も見ていたが個人の性格まではわからない。
地球にいた時に瞬木の闇に全く気付かなかった訳ではなかったがそれでも内心、性格の激変に驚いていたのだ。
さくらも剣城の言葉に項垂れてしまった。
「あー…そっか、剣城って今の瞬木とあんまり接点ないんだっけ」
「悪いな」
さくらが頭を抱えるとさすがに申し訳なくなったのか剣城が眉を下げる。
しかし落ち込んでいても仕方ないと思ったのかさくらはバッと顔をあげた。
「話聞いてくれてありがと!私他の人にも話聞いてみる!」
「あ……さくら!」
「?」
さくらが部屋を出ようとドアに手をかけた時だった。
剣城が声をかける。
「何?」
「あー…よくわからないが、瞬木みたいな奴には、変に自分を飾らない方がいいと思うぞ」
照れ臭いのか、いつも人の目を真っ直ぐ見て話す剣城にしては珍しく、さくらから目線を外しながらそうアドバイスする。
さくらは一瞬キョトンとしてしまったが剣城の優しさに気付いたのか、笑顔を浮かべた。
「ありがと!剣城!」
「と!いう訳で鉄角瞬木の好みとか知らない!?」
「お前、俺には遠慮とか一切ないのな」
「え?」
剣城の部屋を出た後、やはりここは女の子達に相談すべきかと思い、さくらがペタペタ廊下を歩いていると正面から鉄角が歩いてきた。
「あれ?こんな事で何してんだ」
「…鉄角、アンタ丁度いいタイミングね」
「は?」
これだけ長い旅をしたのだ。
男子同士なら好みの女の子の話ぐらいした事ぐらいあるだろう。
やはりここは女の子よりも男子だ。
先ほどまでと考えていた事を180度変えたさくらはちょっと来て!、と鉄角を近くの部屋に無理矢理連れこんだ。
「瞬木の好み、なぁ…」
剣城と話してある意味吹っ切れたのか、さくらは今までの事を手短に話すと鉄角に単刀直入に聞いた。
鉄角はいきなりの話に面食らいながらも少し考えこんだ。
「つーかお前、瞬木のどこが好きなんだ」
「えっ!」
鉄角の言葉にぶわっと赤くなるさくら。
そんなさくらに面白いものを見たというように鉄角が意地の悪い笑みを浮かべた。
「な、なんでそんな事教えなきゃいけないのよ!」
「いーじゃねーか、そんぐらい。瞬木の好み教えてやんねーぞ」
「う…」
そう言われると辛い。
何故ならさくらには時間がないからだ。
瞬木は関東住まい、対するさくらは沖縄住まいだ。
他の皆のようにせめて本州住まいなら会えない事もない。
しかし沖縄ともなれば話は別だ。
その上瞬木は携帯を持っていないと言っていた。
地球に帰れば支給品である携帯は回収されてしまうかもしれない。
つまりさくらはこの1週間で最低でも想いを伝えなければならないのだった。
でなければ今まで築き上げてきた関係が前に進むどころか、下がってしまう。
それだけはなんとしてでも避けたい。
そして叶う事なら、想いが届いて欲しい。
恋する女の子がそう思うのは当然だった。
「…誰にも言わないでよね」
周りに誰にもいない事を確かめるとさくらはポツリポツリと話し始めた。
「…最初は、なんか本心隠してて気に食わないなって感じだった。それからいつの間にか目で追うようになったの」
さすがにあの本性が表に出た時はビックリしたけど、とさくらは続ける。
「でもいつでも弟たちを大切に思っていたり、口が悪そうに見えて実際は相手を気遣っていたり、ちょっと偉そうなとことか自信家なところもそれだけ今まで自分がしてきた努力に自信があるからだろうし、…アイツのいい所あげたらキリがないわよ」
「…お前スゴいな」
「は?…ていうかもういいでしょ!早く教えなさい!」
「おっと」
もう耐えられないというように照れを通り越して怒りを表すさくら。
さすがに意地悪し過ぎたかと思い鉄角も苦笑いを浮かべた。
しかしそれでも内心鉄角は驚いていたのだ。
何故ならさくらみたいなタイプは好きな理由を聞いてもどうせ顔が好みだからと言うと思っていたからだ。
しかし実際は全然違った。
一見欠点に見える所さえ、さくらは全て受けとめていた。
本当に、本気でさくらは瞬木が好きなのだろう。
こんなにも想われている瞬木が少しだけ羨ましく思った。
「鉄角?」
「あー…と悪い悪い。瞬木の好みだっけ」
「そうよ!忘れないでよね!」
「はいはい。…瞬木の好みはな、」
「うん」
やたらと引っ張る鉄角にもどかしさを感じながらも大人しく待つさくら。
緊張からか、喉がゴクリとなる。
そして鉄角がやっと口を開いた。
「知らねぇ」
「は?」
「だから知らない…っーかわからねぇんだよ」
「ど・う・い・う・こ・と・よ」
「いててて!」
怒りに任せてさくらが思い切り鉄角の頬を引っ張る。
それは当然だろう。
こちらは瞬木の好みを知るために恥を忍んで瞬木の好きな所を話したのだ。
なのに好みがわからないとはどういう事だ。
これは立派なルール違反である。
さくらの怒りは収まらなかった。
「ちょ、落ち着けって!これには理由があるんだって!」
「はぁ!?」
さくらにつねられた頬を擦りながら鉄角が弁解を始めた。
「そりゃまぁ、アイツと好みのタイプぐらい話した事あるけどよ、それって地球にいた時なんだよ」
「それが何……あ、」
最初は意味がわからないという顔をしていたさくらだったが途中で鉄角の言葉の意味に気付いたようだった。
地球にいた時。
つまりそれは…
「その時は優しい奴とか当たり障りない事言ってたけど、今思えばそれも嘘っぽいしなー」
「何よ、それ…」
その時を思い出すように空を仰ぐ鉄角にガックリと肩を落とすさくら。
これでは何も参考にならない。
「悪いなさくら!」
「はぁー…もういいわよ、アンタに聞いた私が馬鹿だった。やっぱり女の子達に相談するわよ」
あっけらかんといい放つ鉄角に毒気が抜けたのか、鉄角に噛み付くのをやめたさくらは鉄角に背を向けた。
「さくら!」
「…何?」
先ほどの剣城のように後ろから声をかける鉄角。
しかしさっきとは違い、相手が相手なのでさくらは気だるげに振り返った。
すると鉄角がニカッと笑いながら親指をビシッと立てた。
「男は当たって砕けろ!」
「男じゃないし!砕けちゃダメでしょ!」
やっぱり鉄角は当てにならない。
さくらの頭にそう強く刻みつけられた。
「あーもー!時間がないっていうのに…」
葵達を探しに食堂へと向かうさくら。
さくらの頭には鉄角への怒りしかなかった。
だから気付かなかったのだ。
死角となる壁に凭れかかっている瞬木がいるという事に。
「野咲」
「ッ!」
気のせいか、いつもより少し冷たい声で話しかけられる。
さくらはギギギと音がなるぐらい、ぎこちない動作で瞬木の方を振り返った。
「ま、瞬木…」
まさか鉄角との会話を聞かれていたのだろうか。
いや、確かあの部屋は防音だったはず。
聞こえる訳がない。
「な、何か用?」
どうにか平静を装ってさくらは瞬木に笑いかける。
しかし瞬木はさくらの問いには答えず、ジリジリと近づいてくる。
「な、何よ」
再び問いかけるが瞬木は答えない。
好きな人がこんなにも傍にいるというのは嬉しいが瞬木が何も喋らないので少し怖い。
瞬木が近づけば近づくほどさくらは後ろへ下がる。
そして遂にはさくらの背中に壁が当たってしまった。
その上さくらから逃げ道を奪うように瞬木が壁に手を添える。
「ま、瞬木?」
「お前、俺の事好きなの?」
「!」
疑問形でありながら瞬木の言葉は疑問ではなかった。
つまり少なくとも鉄角との会話は聞かれていたという事。
告白する前に気持ちを当てられてしまったさくらは恥ずかしさからか、顔を真っ赤にしながらも瞳を潤ませた。
しかしここで泣いてしまっても仕方ないし、何より性に合わないのでぐっと我慢すると声高らかに言い放った。
「そうよ、私は瞬木が好き。何か文句ある?」
「……へぇ」
一瞬泣くかと思ったのに涙を堪えたどころか、生意気にそう宣言するさくらは瞬木の目には面白く映った。
確かに瞬木はうじうじしている人間は嫌いなのでさくらの行動は正しかったと言える。
瞬木はニヤリと笑みを浮かべるとぐっとさくらに顔を近づけた。
「また…」
「お前、やっぱ結構俺の好みだよ」
「え…」
「別に好きじゃないけど」
「な…!バカにしてるの!?」
「さぁ?」
瞬木はサッとさくらから距離を取ると挑発的な笑みを浮かべた。
その表情にさくらは先ほどとはまた違った意味で顔を赤くする。
瞬木はさくらのその表情に満足げに笑うと壁についていた手を離し、さくらに背を向けた。
「あ、ちょっと!」
「言っただろ、別に好きじゃないって」
「う…」
「『まだ』、な」
「へ?」
瞬木は顔だけさくらの方に向けた。
さくらの方はというと瞬木が最後にポツリと付け加えたような言葉にキョトンとしてしまっている。
瞬木はそんなさくらを面白そうに見つめる。
「この携帯、返さなくていいんだとよ」
「え…」
支給品である携帯を見せびらかすように軽く振る。
瞬木のこの言葉にさくらは思わず目を見開く。
それはつまり…
「ま、あんまりメールとかされるのもうざいけどな。せーぜー頑張って、俺の事落としてみろよ。『さくら』」
「な…!」
瞬木は自分の言葉に一喜一憂するさくらをからかうように二ッと笑いかけると手を軽く振りながらその場を後にした。
「〜〜あぁもう!やっぱりムカつく!」
それでも、好きな人に下の名前で呼ばれる。
そんな小さな事でこんなにも熱くなるのだから恋というものは本当に不思議だ。
「…見てなさいよ」
諦めの悪さならこっちだって負けてない。
私以上に、アイツを私に夢中にさせてやるんだから。
さくらはそう心に誓うと気合いを入れるために頬を叩いた。
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めろめろきゅん
title by 『魔女』
2周年リクエスト
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