恋する少年少女(ドキプリ・イラりつ)


「マナー!一緒に行こ!」
「レジーナ!」

キングジコチューが倒され、無事平和をもたらしたマナ達。
戦いの傷が癒えた後、マナがいつものように六花と学校へ登校するとレジーナが飛んできた。

「どうしてここに…」
「パパにお願いしたの!」

話を聞くと、どうやら今は国王様と一緒に四葉財閥の所有するマンションに住んでいるらしい。
二人共慣れない家事で苦労する事も多いが、毎日楽しく過ごしているという。

しかしそこには1つ問題があった。

レジーナ位の年頃となれば普通中学校に通うものだ。
全国中継でプリキュア達の戦いは放送された為、二人の事情は多くの人々が知っている。
しかし義務教育というものがあるこの国において学校に行かないというのは少々まずい。
しかし当然の事ながらレジーナは学校という場に通った事がない。
その為ならばせめて、というよりマナが大好きなレジーナはマナ達が通う中学に通いたいと国王にお願いしたところ、国王はあの子達と一緒なら、と二つ返事で了承したのだった。

「さ、早く行こ!」
「わっ!」

レジーナはマナの腕を引っ張ると嬉しそうに笑いながら六花をおいて学校へと駆けていった。
「もう…レジーナってば本当にマナの事が大好きなんだから」
「全くだな」
「ね。……って、イーラ!?」
「…んだよ」

六花が苦笑すると聞きなれた声が横からした。
一瞬スルーしてしまったが改めて横を向くとそこには少し着崩した、しかし紛れもなく六花と同じ中学の制服を着て不機嫌そう立っているイーラがいた。
六花は驚きを隠せなかった。

「なんでここに…」
「アイツのお目付け役」
「アイツって…レジーナ?」
「それ以外誰がいるんだよ」
「でもなんで…」
「…頼まれたんだよ」
「え?」

それきり、イーラは口を閉ざしてしまった。

イーラも本当はベール達と一緒に1万年の眠りにつくつもりだった。
彼女の笑顔を目に焼き付けて、その場を離れようとした時だった。

(待って下さい)

声が、頭に響いたのだ。
アン王女の声が。

振り返るとぼんやりと、しかし確かにアン王女の姿が目の前に浮かんでいた。

「…んだよ」
「あなたには、大切な人がいますね?」
「な…っ!」

アン王女は穏やかに笑みを浮かべながらそう問いかけた。

「あなたは不思議な人です。あなたは確かにジコチューではありますが愛を持っている」「はぁ!?」

『愛』という言葉に誰かを思い浮かべたのか、イーラの頬は赤く染まった。
アン王女はイーラの胸元にあるプシュケーを見た。
それは黒く染められているが小さく、本当に小さくだが確かに綺麗なピンク色となっている部分があった。

「けどあなたの知っている愛はまだ小さい。…私は、あなた達ジコチューにも愛を知ってもらいたいと思います」
「…何が言いたいんだよ」
「本当に、このまま1万年もの長い眠りについて良いのですか?」
「!」

イーラの瞳が大きく揺れる。
それは、イーラが本当は彼女とこのまま別れたくないという意志表示だった。
もっとも、イーラが最後に彼女を見つめる切なげな眼差しを見れば、誰だってわかる。

本当は、彼女と永遠に『サヨナラ』などしたくないと思っている事など。

だからマーモもあの時優しくイーラに声をかけたのだろう。
アン王女はクスリと笑うとイーラを見つめた。
少し茶目っ気を交えて。

「そんなあなたに、お願いがあります」
「は?」
「あの子の、レジーナの事を見守って欲しいのです」
「はぁ!?」

アン王女の申し出に当然ながらイーラは目を丸くした。
それはそうだろう。自分の分身ともいえる人物を敵に頼むなど、誰がすると思うだろうか。
それでも、アン王女はイーラに頼んだ。

イーラに愛を知ってもらうために。
二人に、悲しい思いをさせないために。

アン王女は、彼女の中に潜む、イーラを思う、淡い恋心にも気付いていた。

「私は今回の出来事である事に気付きました。それは、愛とは自己中と表裏一体の関係であるという事」

国王はアン王女を愛するが故にキングジコチューの封印を解いてしまった。
アン自身も、父を愛するが故にキングジコチューを倒さなかった。
普通の人だって、誰かを愛せば自分だけ見ていて欲しい。自分の事を一番に考えて欲しい。そう思うようになる。
確かに愛は素晴らしい。
しかし、だからこそ愛は危うい。

「レジーナは心の綺麗な、まっすぐな女の子になってくれました。けれど、だからこそ心配なのです。キュアハート…いえ、マナを愛するが故にまたジコチューな思いに囚われてしまわないか」
「…だからって、なんで俺に言うんだよ。それこそ俺はジコチューの塊なんだぞ?」
「あら、だって私は――…」


「イーラ?」
「…んでもねーよ。ほら、遅刻してもいいのかよ」
「あ、待って!」

黙ってしまったイーラを不思議に思い、六花がイーラの顔を覗きこむとイーラは頬を若干赤く染めながら顔を反らして止まっていた足を進めた。
六花が慌ててそれを追いかける。

「ねぇ…イーラはまた誰かをジコチューにするの…?」
「なんだよ、して欲しいのか?」
「そんな訳ないでしょ!ただ私は…もう、イーラと戦いたくないなって…」
「、」

六花が目を潤ませながら俯く。
六花の珍しい表情に一瞬、イーラの息が止まった。
それを誤魔化すように六花から顔を背けると馬鹿にしたように鼻で笑った。

「ハッ!お前も結構なジコチューだな」
「な、何よ!大体あなたねぇ…」
「もうしないよ」
「え、」

イーラが振り返る。
先ほどまでのふざけた様子とはうって変わってどこか真剣な目をしていた。

「俺達がジコチューを生み出していたのはキングジコチュー様のため。けど力を失った今、どれだけジャネジーを発生させても意味がない。だからもう、ジコチューは生み出さない。それに…」

俺だってお前とはもう――…

「それに?」
「…―っなんでもねー!それより行くぞ!」
「きゃ!」

六花が続きを促すがイーラは顔を赤くすると再び前を向いてしまった。
そして強引に六花の手を引っ張った。
六花は驚きはしたものの、拒否はしなかった。
だってずっと――こうしていたい、こうなればいいなと思っていたから。
イーラの手は強引なくせに優しかった。
そのうえ、引っ張っているように見えて、実際は六花の歩調に合わせてくれている。
イーラのこうした小さな気遣いが六花には嬉しかった。

「ねぇイーラ。これからは、敵同士じゃないのよね」
「まぁな」
「じゃあ…私と友達になってくれる?」

六花の控えめな言葉にイーラはピタリと足を止めた。
急に止まったものだから六花はイーラの頭に鼻をぶつけてしまった。
文句を言おうとした矢先にイーラは振り返ったため、あまりの近さに思わず六花は言葉を失った。
ただでさえ近い距離を更にイーラは不機嫌そうな表情で六花に近づく。

「イ、イーラ?」
「お前はそれで満足なのかよ」
「え…」
「俺は『友達』なんかじゃ足りない。俺はお前が欲しい」
「イー…」

(せっかくアンタがくれたチャンスだ。ジコチューらしく、後悔しない道を選ばせてもらうぜ)

六花が言葉を紡ぐより先にイーラはその口をふさいた。


(だって私は、恋する少年少女の味方ですから)


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