待ってて(ドキプリ・イラりつ)


「まさかベールが最後の相手とはね…」
「けど!国王様だって助けられたもん!私達ならきっと大丈夫!」
「うん!」
「待てよ!」

キングジコチューを倒し、国王様の愛を取り戻したかと思ったら今度は常日頃から野望を抱いていたベールが新たな巨大な敵となってしまった。
しかしここで後には引けない。
皆の笑顔を、愛を守る為、プリキュア達は再び立ち上がった。

しかしそこに1人の少年の声が響いた。

「お前達、本当に行く気かよ」
「イーラ…」

お前『達』、と言いながらもイーラの瞳には六花しか映って居なかった。
先ほどの戦闘でだいぶ傷付いたのだろう。
それでも、フラフラになりながらも、イーラは六花から目を反らさなかった。
六花は心配そうにイーラを見つめていたがやがてふっと笑った。

「えぇ。行くわ」
「な…っ!っアイツはその国王様と違って愛なんてものとは無縁の奴なんだぞ!?そんな奴とどう戦うってんだよ!お前だってもうボロボロじゃねーか!」
「それでも、行かなくちゃ」

六花は、決して意思を曲げない。
それに同意するように六花の周りにはマナ達が寄り添ってきた。

「確かに私1人だったらどうにも出来ないかもしれない。けど私は1人じゃない。マナが、ありすが、まこぴーが、亜久里ちゃんが、レジーナがいる」
「私達を応援する声がある。仲間がいる。だから私達はまだ戦えるの」
「私達は、絶対に諦めません」
「皆を守る為に!」
「お前ら…」

六花だけじゃない。
マナ達皆、ここから逃げるなんて選択肢はどこにもなかった。
この世界を愛で溢れさせる為、最後まで戦いぬく。
例えどんなにボロボロになっても。
そんな決意が、マナ達の瞳には込められていた。

『うおぉぉおお!』

しかしマナ達のそんな殊勝な心意気も虚しく、巨大化したベールは尚進化し続けている。
事態は一刻を争った。

「皆行くよ!」
「「えぇ!」」
「待てって!」

しかし皆がベールのもとへ羽ばたこうとした瞬間イーラの攻撃が飛んできた。

「イーラ!」

六花の悲痛な叫びが突き刺さる。
イーラはくしゃりと顔を歪めたかと思うと攻撃を止め、六花に近付いた。

「え、え?イ、イーラ?」

イーラは戸惑う六花の声を無視すると、六花を正面から抱きしめた。

「へ!?ちょ、イーラ何して…」
「行くな」
「!」

イーラが告げた言葉は、ただそれだけだった。しかしだからこそ、心からの本心な気がした。

「アイツが力を手に入れた今、アイツは今まで以上に強くなっている。お前らの力だって、どこまで通用するか分からない。…俺はもう、これ以上お前に傷付いて欲しくない」
「イーラ…」

六花を抱きしめる腕が、カタカタと震えてる。
六花の肩に顔を埋めている為イーラの表情は分からないが、決してこれが六花達の邪魔をする為に演技しているのではない事が分かっていた。

ただただ、純粋に六花を心配しているのだと。

六花はクスリと静かに笑うとイーラの背中に腕を回した。

「本当に、あなたってジコチューね」
「!」

ピクリとイーラの肩が震える。
そして二人はゆっくりと体を離した。
しかし微笑んでいる六花とは対照的に、イーラの表情は泣きそうだった。

「散々私達に攻撃しておいて、傷付いて欲しくないだなんて」
「だから俺は…!」
「分かってる。…さっきだって、これ以上私達を危ない目に合わせない為にわざと足止めしてたんでしょ」
「、」

図星だったのか、イーラは気恥ずかしげに六花から目線を外した。
イーラにしては珍しく、頬に赤みがさしている。
六花はその頬に優しく触れた。
思えば、こんな風に近くで話すのはあの夏の日以来かもしれない。
あの日から、少しだけ、ほんの少しだけ二人の関係が変わったのだった。

ただの敵同士から、少し気になる相手に。

六花はゆっくりとイーラの頬を撫でた。

「ありがとう。心配してくれて。でも大丈夫。私は1人じゃない。それに私結構強いんだから!」
「でも…!」
「私ね、ベールを倒したら、今度はあなたの愛も取り戻してあげたいって思うの。」
「は、何言って…」
「そしたら、また一緒にオムライス食べましょ」
「!」

忘れた、と言っていたがやっぱりそれは嘘だ。
その証拠にイーラはその瞬間目を大きく見開いた。
六花はあの日出会ったイーラもこのイーラの一面だと信じてる。
だからこそ思うのだ。

イーラにも、きっと誰かを思いやる、優しい心があるのだと。

「だから待ってて。私の帰りを。きっと戻ってくるから」
「…っ約束しろよ!」
「えぇ!」

六花の言葉を最後に、イーラは強く六花を抱きしめた。

これが最後の別れにならない事を願いながら。

イーラはゆっくりと六花から離れると風になびく六花の髪の毛を一房取り、そっと口付けた。

「イ!?」
「…待ってるからな」

イーラはそう言うとその場から姿を消した。

「イーラ…」

六花は名残惜しく、イーラのいた場所を切なげに見るだけだった。
しかし、

「六ー花っ!愛の力、沢山もらっちゃったね!」
「マナ!」
「随分大切に想われているのですね」
「ありすまで!」

イーラがいなくなるとここぞとばかりにマナ達がからかってきた。
その姿はただの恋バナで盛り上がる中学生そのもの。
世界の危機に立ち向かう戦士には見えなかった。
それでも、

「それでは皆さん、準備はいいですか?」

亜久里が呼びかけると皆の顔つきが引き締まった。
皆はお互いに顔を見合せると頷きあい、ベールへと体を向けると高らかに宣言した。

「愛をなくした悲しいベールさん!このキュアハートが!」
「キュアダイヤモンドが!」
「キュアロゼッタが!」
「キュアソードが!」
「キュアエースが!」

「あなたのドキドキ、取り戻してみせる!」

「フハハ!やれるもんならやってみろ!」
「行くよ、皆!」
「「えぇ!」」

こうして今度こそ、プリキュア達は最後の戦いへと飛び立った。



「…やっぱりお前は、青くて、ふわふわして、キラキラしてて、まるで―――天使みたいな奴だよ」

ちゃんと戻ってこいよ、六花。

1人の少年は愛しげにそう呟くと今度こそ姿を消した。

- 23 -
[prev] | [next]


back
TOP

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -