天葵


「絶対、夢なんかじゃないと思うんだけどなぁ…」
「てーんま」
「!、葵」

天馬がミーティングルームでピクシィと戯れながら1人ぼやいていると後ろから声がかかった。

「どうかしたの?何か心配事?」
「別にそういう訳じゃないんだけど…」

葵は天馬の隣に腰かけるとピクシィを優しく撫でた。
ピクシィは嬉しそうにピィ、と鳴いた。

「じゃあ…カトラさんの事?」
「!、なんで分かったの!?」
「分かるよ、天馬の事だもん」

天馬は驚いているが葵は穏やかに微笑むばかりだった。
天馬は葵の表情を見るとぎゅ、と拳を握った。

「皆は夢だっていうけど、水川さんはあり得ないっていうけど、やっぱりあれは夢なんかじゃないと思うんだ」
「うん、信じるよ」
「え?」

天馬は自分で言った事とはいえ、葵がすぐさま肯定した事に少し驚いた。
天馬は顔をあげて葵を見るが葵は変わらずピクシィとあどけない表情で戯れていた

「…葵は信じてくれるの?」
「当然でしょ。私はいつだって天馬の事信じてるもん。それにこのピクシィだって天馬の夢から出てきたんでしょ。だったら天馬には何か不思議な力があるのかもしれないじゃない」

だから信じる、と。

「葵…」
「ちょっと妬けちゃうけどね」
「え?」

ボソリと言った言葉は天馬には届かなかったようだ。

「――なんでもない!ほら、そろそろご飯だよ。行こ!」
「あ、うん!」

そしてピクシィを連れて食堂に行こうとした時だった。

「――葵!」
「ん?」
「ありがとう」

俺の事、信じてくれて。

「――当然でしょ!」


(だけど少しカトラさんに妬いてしまっているのは私だけの秘密)

(傍にいなくとも、こんなにも天馬に思われているカトラさんが少し羨ましい)

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