アス黄


「アースレー!トリックオアトリートやんね!」
「なんだ?、それは」
「えぇ!?アスレイ知らないやんね!?」

友人から貰ったのだろう。
腕に沢山のお菓子の入ったパンプキンの絵が書いてある缶を抱えている。
さっきまで一緒にいた友人にしたようにアスレイにもお菓子をねだろうとしたが、驚いた事にアスレイはハロウィンを知らなかった。

「褒美かイタズラか…?」
「褒美ってよりお菓子やんね!お菓子くれないとイタズラしちゃうやんね!」
「そんな事言われても菓子など持ってないのだが…」
「え、」

しかしアスレイがハロウィンを知らないなら持っていなくとも仕方ない。
まぁ最も、知っていた所でアスレイがお菓子を持っていたとは思えないが。
だがアスレイからお菓子を貰う気満々だった黄名子がずーんと落ち込んでしまい、アスレイはオロオロした。

「す、すまない…」

しかし持ってないものは仕方ない。
黄名子は顔をあげるとにっこりと笑った。

「じゃあアスレイ、イタズラとしてうちのお願い一個聞くやんね」
「それは構わないがあまり無茶なお願いは勘弁してもらいたいのだが…」
「この後うちとサッカーするやんね!」
「…え?」

心配するアスレイとは裏腹に、黄名子のお願いとは極単純なものだった。

「そんな事でいいのか?」
「うん!…最近アスレイ忙しくて一緒にいられる日が少なかったし…」

黄名子の表情に僅かだが陰りが生じた。
そしてアスレイはその言葉にハッとした。
最近アスレイは提出しなければならないレポートが溜まっており、ここ2週間は黄名子とまともな会話すらしていなかったのだ。
アスレイは自分の行動に歯痒さを感じ、ぎゅっと口を結ぶと口を開いた。

「…黄名子」
「ん?」
「サッカーをしたら、近くに出来たカフェでお茶でもしよう。その後は家でゆっくりと過ごすのでもいいし、どこかに出掛けるのでもいい。今日はずっと一緒に居よう」
「…本当?」
「あぁ。レポートはもう提出した。…今まで寂しい思いをさせてすまなか…」

アスレイが言い終わらないうちに黄名子がアスレイにぎゅっと抱きついた。

「黄名子?」
「…本当はちょっと怒ってたけど許してあげるやんね」

黄名子はそこで言葉を切ると顔をあげた。

「大好きやんね、アスレイ!」




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