自力まとめ64 さくらさく   2014/04/18 21:51

目標までの距離およそ740。
夕暮れの時の人混みをすり抜けて走る。
予想していたよりも任務が難航してしまった。
900gタックスフリー170JPY。
これを逃してはならない。
目標を取り囲む連中を掻き分けて進む。
全力で目標までの最短経路を辿る。
やっとの思いで辿り着いたがそこは既にもぬけの殻。
崩れ落ちそうになるが手をついて踏みとどまった。
完全に出遅れた。
こんな物1つ手に入れられないで何が全部隊の頂点に立つ男だ。
聞いて呆れる。
チャンスは今日までだったのに。
失態だ。
思わず舌打ちしようとして慌てて堪える。
仕方がない、切り替えよう。
まだ手駒全てを失ったのではない。
『「期間限定ファーファトリップ日本さくらのかおり」0.9kg税抜170円』の特売の札を背に、次の店へ。
「トキオさん?」
背後から聞き覚えのある声が次の店舗へ向かう足を止めた。
「ナオユキどうした……ってお前ソレ」
言わずにはいられなかった。
ナオユキの手には俺が買いそびれた『期間限定ファーファトリップ日本さくらのかおり』が握られていたのだ。
何で、お前がそれを持っている?
頭の中でナオユキの今日の行動をシミュレートし、予測できる可能性を全て辿る。
「これで最後だったみたいですよ」
シミュレーションが崩壊する。
何で、それを手に入れられたかなんてそんな事はどうだって良い。
お前の爽やかな笑顔が今日程憎いと思った事は無いと思った。
無言で踵を返し、走り出す。
背後の叫ぶ声を無視して次へ向かう。
構っていられるか。
今の俺はJ部隊の頼りになるお兄さんではない。
急がねば。
次の店は4円高いが他の通常商品は同量で189円だ。
そう、今の俺はフルタイムで働く兼業主夫なのだ。
これから夕飯の支度と朝食の下拵えが控えているのだ。
時間を無駄にはできない。
これ以上の無駄足は、しない。

「あれトキオ?」
再び急いでいた足は呼び止められた。
苛立ちを覚えながらも振り返るとそこにはタマキが居た。
そして手にはレジ袋。
「お前、それ……」
「今朝終わりそうだってお前言っていただろ? 丁度その話をナオユキにしたら今日が特売だって教えてくれたんだ」
「タマキ……」
感動で言葉が出ない。
ナオユキも悪かった。
ありがとう。
レジ袋を何となく受取ると、軽い。
中身を確認する。
……やはりか。
「タマキ……」
突然低くなった声にタマキがいぶかしがる。
「あっ柔軟剤も?」
違う、そうじゃない。
これだから男は! 全く考えが回らない!
「1つじゃ足りないんだ!」
「行くぞ!」
呆気にとられるタマキを置いて走り出した。
ついてくる足音はさすが同じ特殊部隊の人間だと思わせる。
遅くない速度にまだ息も上がっていない。
「どうしたんだよトキオ」
「まだ走れるだろ?」
「走れるけど……」
「良いからついて来い」
4円高くなってもそれでも定価よりは安い。
お1人様2点までならタマキも居れば4つ買える。
家に帰ったら洗濯機を回そう。
明日の天気予報は晴れだった。
たくさん買った洗剤を使ってシーツも洗おう。
きっと起きる頃には晴れていて二人分の洗濯物を乾かしてくれるだろう。
近道で抜けた公園の、満開の桜並木を見てそう思った。


目的地のマナベさんにツイッターでお題を出されました。
「桜」というお題です。
いつものようにマナベさんバージョンと原文はマナベさんのサイトで!笑

あ、ファーファの桜のかおりを買い損ねたのは私です。




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