さらに続き   2013/09/03 22:16

オミは最近、解散後にミーティングルームでうたた寝している事が多い。
完全に寝入っているのではなく、ただ目を閉じてぼんやりしている。
寝不足なのかミーティング中にあくびを噛み殺しているのもよく見掛ける。
それでも任務はそつなくこなして相変わらず減らず口を叩いている。
単なる寝不足じゃなくて、もっと様子がおかしいと気付いているのは、多分タマキだけだ。


「あれ? オミじゃん。起きろ起きろ、こんなところで寝てんな」
先にミーティングルームに入ったヒカルの言葉に、またか、と思う。
キヨタカが寝惚けているオミを引っ張り起こしている。
「こんな時間まで何をしている。寝るなら電気を消せ。勿体無いだろう」
「突っ込むところそこかよ。オミ、起きろ。変態に襲われるぞ」
「……元テロリスト相手に良い度胸だね」
「反抗的な奴こそ屈服させるのが愉しいからな」
「胸張ってんじゃねーよキモい」
「ところで、こんな時間までどうしたんだ?」
「無視かよ」
「別に。ダラダラしてただけ。そっちこそこんな時間までご苦労だね」
「俺らはいつもの事だからな。夜のが捗るし」
「ふーん」
「最近寝不足だろう」
「任務に差し支えるようなヘマはしないよ」
「ダラダラしてるのも構わないがちゃんと寝るようにな」
「分かってるよ。……カゲミツは?」
「カゲミツ? なら一緒に……ってなに入口で突っ立ってんだよ」

ヒカルに呼ばれて我に返った。
オミがゆっくり振り返る。
緩慢な動作でヒカルに向き直り立ち上がる。
「仕事のお邪魔だから帰るよ。お疲れ様」
こちらに向かってだらだら歩いてくる。
オミがだらしない動きをするのは珍しい。
いつもはもっと綺麗に歩いているのに。

「邪魔なんだけど」
凝視していたらいつのまにか傍まで来ていた。
「あっ悪い…」
悪い、とは言ったけど何となく動けずにいた。
「退いてもらって良い?」
動かない俺を押し退けようとした腕を咄嗟に掴む。
「なっなあ! 何で眠れないんだ?」
自分の行動が予想外で、慌てて思わず出した大声に眉をしかめられた。
舌打ちまでされた。
俺の知ってるフジナミオミは舌打ちなんかしない。
いつもエセ爽やかな皆の人気者だ。
皆の前でこんな心の底から面倒臭そうな顔なんかしない。
俺のフジナミオミはどんな相手にも優しく笑顔で親切だ。

「…オンラインゲームにはまってて眠る時間がないんだよ」
「はっ? ネトゲ?」
予想外の答えに言葉が詰まる。
「そう。ギルドでは『天衣無縫の戦王』って呼ばれているよ」
「アートレス…なんだって?」

「ヒカル?」
「『アーサー・ザ・アートレス』だと…?」
ソファを乗り越えてヒカルが突進してくる。
俺の手をひっぺがすように強引にオミの手を両手で握りしめ、熱っぽい目でオミを見つめる。
「……貴方が神か!」

意味が解らない。
「……そうだけど」
オミがちょっと引いている。
「数多の廃神達が成し遂げられなかった最難関のフィールドをデフォルト装備でクリアし、プレイ時間が仕様上最速と言われた700時間に満たないにも関わらず特殊イベント取得率とミッション達成率100%、集団ミッション発生時には何処からともなく現れて統率していく誰ともつるまない神出鬼没の戦神!!っていうか先週のミッションは感動した!」
「実に説明的な台詞をありがとう」
「いや全然わかんねーし!」
ヒカルは大分興奮している。
「夜しかログインしないから社会人って噂で、課金もせずボット使ってるわけでも無いのにどうやってあのプレイ時間でこなせるんだよ!!」
オミは大分引いている。
「サーバーのデータ書き換えれば?できるだろ?」
「犯罪じゃねーか!」
「その口でよく言うよ」
ヒカルは興奮していて気付かない。
「パーティー入れてくれ!!」
「面倒だから嫌だ」
キヨタカは気付いたみたいだ。
そうなんだ。
「ヒカル、それくらいにして仕事に戻れ。カゲミツもだ」
「ヒカルー戻ってこい」

いつものオミならあんな事は言わない。
本当に無神経な事は言わない。
あんな深刻に、古傷を抉るような事は言わない。
いつもの「フジナミオミ」は。
幸いヒカルは気付いていないみたいだ。

「それじゃあおやすみ。また明日」
「おー、また明日」
「今日はもうゲームすんなよ」
「ちゃんと寝るようにな」
「分かってるよ。キヨタカ、その駄犬をしっかり躾といてくれる?」
「ちょ、余計な事言うんじゃねーよ!!」
「無論、言われなくとも」
「うわ、二人ともうざい」

うんざりした顔でオミが出ていく。
「オミ。……その……おやすみ」
「……おやすみ、カゲミツ」



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