自力まとめ47 やさしさライセンス   2013/07/17 00:15

ジッ、と音を立ててフリントホイールが空回る。
火は着かない。
ガチガチと何度もホイールを回すが火は着かない。
当たり前だ、オイルを補充していない。
「煙草吸うならあっち行けよ」
「ここは喫煙席だよ」
「じゃねーよ!PCある部屋で微粒子撒き散らすんじゃねぇ!」
「うるさいなぁ」
「あっち行けよ!」
「しょうがないな、カゲミツの我が侭」
適当に返事をするとカゲミツが何かを放って寄越した。
使い捨てライターだ。
「本当は補充のオイルがあれば良かったんだけどそれで我慢しろ」
ついでにもう一度あっち行けと言われた。
引き出しの中に未開封のパッケージが大量に見える。
「これはご丁寧にどうも」
形ばかりのお礼を言って部屋を後にする。
使い捨ての、何の値打ちもない新品のガラクタを握りしめた。

階上のバーで今度はライターを弄っているといけすかない奴が話しかけて来た。
ニヤニヤ笑顔が苛立たしい。
「煙草やろうか?」
「煙草は嫌いなんだ」
「あれ? 船でタマキに火借りようとしたって話だけど?」
「自然に話し掛ける口実になるだろ。ふかしてただけで吸わない」
「ま、良い小道具だよな」
「煙草くらい吸えないと舐められる」
「確かに」
「それにマフィアの親分は葉巻を燻らせてるもんだろ」
トキオの動きが止まる。
「何?」
「…あー確かにお前って形から入るタイプだもんな」
俺はこいつが嫌いだ。
「コードネーム付けたり」
「その方がいかにもっぽくて格好良いじゃないか」
「笑って良いか?」
大事な事なので2回言う。
俺はこいつが嫌いだ。
どうせこいつに何を言っても軽くいなされるだけなのでそっぽを向いて酒を煽った。
何事にも遊び心は重要だ。
仕事は楽しくないと。
何か楽しい事考えて遊びみたいにしないと。
ジッポーとライターを一緒に握りしめる。
「で、ライターどうしたんだ?」
「カゲミツがくれた。ちなみにジッポーは父の形見だよ」
「ふーん、じゃあ煙草を吸えないオミ君にお兄さんからも何かあげよう」
もう一度言う。
俺はこいつが嫌いだ。
ふと顔を上げるとマスターが半笑いで目の前にいた。
グラスを置いてトキオを指差す。
「あちらのお客様からです」
「死ねば良いのに!」
向き直って思わず叫んだ

マスターと一緒に大笑いされた。
腹が立つ。
出されたグラスを掴んで一気飲みする。
まあ、美味しい。
味はよく判らなかったけど。
「オミ」
呼ばれて振り向くと何かを投げつけられた。
今日は何なんだ。
物を投げるな。
ちゃんと渡せ。
掌の中の、投げられた物を見る。
「…オイル」
「入れとかないと傷むからねー」
何なんだ今日は。
今日は誕生日でも何でもない。
記念日でもない。
何でもない日だ。
何でもない日おめでとう、か。
何なんだ。
そっぽを向いて氷しか入ってないグラスを煽る。


「…ふん、ありがとう」




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本当はふかしてるだけで煙草吸えないオミ様を受信したので今日も元気です。
オミ様は形から入る子です(笑)
格好いいからコードネームつけようとか言っちゃう子だもん☆ミ





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