自力まとめ46 しょうらいのゆめ   2013/07/15 19:47

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「ぼくのしょうらいのゆめはけいさつかんになることです。けいさつかんになって、こまっている人をたすけたり、わるい人をつかまえて、みんながえがおでくらせる町をまもりたいです。」

そんな書き出しで始まる平仮名ばかりのでたらめな作文を思い出した。
そうだな、お前の将来の夢は半分だけ叶ったよ。
せめてただのお巡りさんだったらどんなに良かったかと汚れた手を見て思う。
大人受けが良いように適当に作文だけど別に警察官になりたかったのは嘘じゃない。
ただ、警察官でも良かっただけだけど。
社会的信用と社会的地位がある職業なら何でも、軍人でもパイロットでもそれこそ教員でも良かった。
迷う選択肢なんか無い。
端からみたら苦労など無いように見せ掛けながら、ただ一直線にやりたかった事もなりたかった物も全部踏み台にしてかけ上がってここまで来た。
机に放り込んである沢山の表彰状やメダルがその軌跡だ。
俺の実力だ。
全部諦めて、勝ち取った。
施設育ちだから、混血だからと蔑まれない為に。

違う。
やりたい事を諦めたんじゃない。
そんな物は俺には無かった。
どうでも良かった。
やりたい事があるという事を最初に諦めた。
俺が、俺の同胞が不当に扱われない為に。
ただ存在を認めて欲しかった。
賤しまれるのが嫌だった。
その為だったら何だってする。
ただそれだけの空っぽな人間なんだ。
あの殺人人形と同じなんだ。
だからさ、俺に憧れなんて抱かないくれよ、頼むから。
頼むから、信頼なんてしないでくれ。

同じだったという「将来の夢」を語る同居人のキラキラした顔に後ろめたさを感じて話題を反らした。
同居人はお前本当に笑わないな、と呟く。
痛い所を突かれたくなくて、やだーお兄さんいつも笑顔よー?
ふざけて返したら俺にはただ目を細めて口角を上げてるだけに見えるよ、と言われた。
黙れよ。それ以上言うな。

お前に何が解る。
お前は何もかも最初から持ってたじゃないか。
俺たちが咽喉から手が出るほど欲しくて欲しくて堪らなくてどんなに憧れて希っても絶対に手に入らないものを。
苛立ちが出ないように大袈裟に顔を作る。
お兄さん苦労人だから色々あるのよーとだけ答えてこの話はお仕舞い、と立ち上がった。
お前が苦労人?
首を傾げるこの同居人は、本当に鋭いようでとても鈍い。
気を付けないと、慎重に、隠さないと、本当は何も無いことが露呈してしまう。

彼は本当の、空っぽな俺を見たらどう思うだろう。
失望するだろうか。
憐れむだろうか。
それとも今と変わらず受け入れてくれるだろうか。
今さら本当の自分も張りぼての自分も区別などつかない。
俺は、何がしたかったんだろう。
漠然とした恐怖と苛立ちから逃げたくて部屋を出た。



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