甘えたいトキオと甘やかしたがりキヨタカ   2013/05/04 13:52

単純に、優しい人なんだよなと思う。
愚直で残酷な訳でもなく、かといって非情になりきれない。

彼自身は不当に扱われた事はないのだろうというのは見てとれる。
そしてそれが当たり前ではないという事もきちんと理解していて、目の前のものを見捨てることができないで何でも拾って抱え込んで、大丈夫だと言いながら傷だらけの背中は絶対に見せない。

そんな、優しい人間なんだと思った。
彼の部下は、幸せだろう。
どんな事があっても彼は自分を見捨てないと信じられる。


「どうした、俺の顔に見惚れたか?」
視線に気付いていつも通りの調子で声を掛けてくる。
「いや、ヒカルやカゲミツや、タマキが羨ましいなって」
「俺の花畑に異分子はいらん。今すぐ失せろ」
「あ、ひどい」
俺はこんなにカッコイイのにーと嘯く。
「俺には、いなかったんですよ。隊長みたいな大人。だから羨ましいなって」
「膝をついて懇願するなら今から庇護下においてやっても良いぞ?」
冗談のようで、何処までも本気な俺様だ。
きっと彼は懇願しなくても俺を見捨てないに違いない。
「冗談でしょう? 俺は一人でもう十分やってける大人なんで」
だから冗談にして線を引く。
信じて、期待して、裏切られて、また失望しないように。
「単にね、あいつらみたく頼っていい大人がいたら違ったと思ったんですよ。今更ながら」
「人を信じられないとは実に悲しい人生だな」
やれやれ、と溜め息をついて肩を竦める。
踏み込まないでくれるのが有難い。
これがタマキだったら大騒ぎだ。
想像して口許が弛む。
「気持ちが悪いな」
「キヨタカ隊長にも頼れる大人がいたでしょー? オトウサマだって最後はあんたを助けてくれると思ってる」
「……そうだな。才色兼備の優秀な跡取りだからな。まあ跡取りとしては見捨てるにしろ、息子としては見捨てないはずだ」
「ね。俺にはそういう大人がいなかったし、俺の周りの人間はそういう大人がいなかった奴ばっかなんですよ。他人を信じないし頼らない。頼ったら負けなんですよー」
信頼しないと軽い調子で言葉に出して意思表明をする。
だけど、

「俺はそうやって生きてきたけど、ガキ共には助けてくれる大人がいるって事ちゃんとみせたいんですよねー」

だから、あんたに協力したい。
でもね、俺はそれを言えないんです。
立場もあるけど、それを言ったら俺は俺じゃなくなるんです。
俺は今までの俺を、否定する勇気なんかないんですよ。

だから言わないけどあんたなら全部、解ってくれるでしょ。
俺なりの、頼り方で悪いけど。

せいぜい協力をお願いしますよ、隊長。




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