自力まとめ33 ルーキーデビュー   2013/04/17 19:25

シャワーブースにうずくまって冷水を浴びる。
何度も嘔吐したせいで吐瀉物が排水溝に詰まってしまった。
濡れたシャツが肌に貼り付いて気持ち悪い。
我ながら酷い顔だ。
ガラスを見て思う。
血の気がなく蒼白なのに目だけギラギラと血走っている。
涙と吐瀉物と涎で汚い。
気持ちが悪い。
何の為なんだ。
気持ちが悪い。
意味を成さない掠れた叫び声を上げる。
何で俺はこんな、

もう吐くものなんかなくて胃液だけを吐き続けた。



なあ、あいつ。大丈夫か?
あいつ?
研修で来てる奴、今日だろ?
ああ、新人にしては上出来。
帰りはずっと顔面蒼白で一言も喋らなかったけどそのうち慣れるさ。
慣れるしかない。
それにしても酷いな、射撃は得意だって話じゃなかったか。
ふん、撃てなかったんだろ。
……まあ、向いてない奴を連れてきたよな。



水が止まる。
上を見ると自分を特殊部隊に引き抜いた上司がいた。
言いたい事が沢山あるのに言葉が出てこない。
何度も口を開閉して、やっと一言、たいちょう、とだけ言えた。
泣きそうなのを必死に堪える。
「風邪を引くぞ」とバスタオルを掛けられて強引に浴室から引きずり出された。



あいつ辞めるかな。
さあ、ここが向いてない事は確かだと思うよ。
で、あいつ何処行ったんだ?
シャワー室。ずっと吐いてる。
ああ、まあ、それも新人の恒例イベントだな。
さっきあいつの所の隊長が迎えに来たからそろそろ出てくるだろ。
そうか。
とりあえず、今日の俺達の無事と、あいつの前途に、



濡れた服を脱がされジャージを着せられた。
されるがままにドライヤーを当てられる。
温風が気持ちいい。
髪を梳く隊長の指が気持ちいい。
だけど吐きそうだ。
「頑張ったな」と優しく言う。
だけど、俺に命令したのは他でもない彼だ。
この声で、この口で、命令したのは彼だ。
俺に殺せと命令したのは他でもない彼だ。
吐き気がする。



いや、今日の死者に献杯。
缶ビールを掲げる。
白々しいな、罪滅ぼしにもならない。
何言ってんだ、これから少しずつ死んでいくあいつの心の弔いだよ。
ああ?
それこそ馬鹿らしいな。
そうか?
もしかしたら俺達と違ってあいつの心は死なないかもな。

もう一度缶ビールを掲げた。



深呼吸して両手を握る。
今度は声に力を込めて隊長、と呼んだ。
ドライヤーが止まる。
今度の部隊は全員新人なんですよね。
だったらお願いがあります。

隊長は黙って先を促す。
声が震えないように、喉に力を入れる。
俺がリーダーです。
必ず前線に出ます。
そして標的は必ず俺が殺します。
手を汚すのは俺と、隊長だけです。

それが、俺達のJ部隊です。





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さりげなく隊長を共犯に仕立てるあたり小悪魔ですね(解説)
いや、まあ、ぶっちゃけ読み返すと普通に皆手を汚してるんですけどね。



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