自力まとめ26 結局ただの痴話げんか。   2013/03/29 22:40

某AKBさんこと目的地のススムさんとのトキタマ合作でーす。
掲載許可&改変許可を戴いたので載せますん。
こうやってみると本当に文章のリズムが違うなあ。


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「トキオ、この関係は終わりにしよう」
俺は合鍵をトキオの手のひらの中に押し付け部屋を飛び出した。
「タマキっ!!」
驚き目を見開いたトキオの顔と声を振り切って俺は急いで階段をかけ降りた。
じゃないと、やっとの思いで決めた気持ちが揺らぎそうだったから……。
トキオが好きだ。
その気持ちは変わらない。
でも、それでも…… 俺は耳も心にも蓋をして、トキオに背を向けた。
だけど、結局さようならとは言えなかった。

エレベータを待ちきれずに階段を駆け降りる。
未練がましい気持ちに追い付かれないように逃げ出した。
マンションを飛び出して当てもなく走る。
明け方の街が動き始めている。
破壊された建物の補修工事の囲いが続く。
そうだ、この街はカナエが守った街だ。
それでも止まらず走り続けた。
見上げた空は群青色から水色に変わろうと…そうじゃない。
俺は空を見上げたのでは無い。
雲一つ無い悔しい程の爽やかな空に貼り付けられた十字架を見上げたのだ。
快晴の空の明るさが目に沁みる。
思わず唇を噛む。
俺はまたここに来てしまったと思った。
カナエの気配を感じるこの場所へ。

壊れかけた扉を押し退けて中に入った。
何年も放置されている絨毯はぼろぼろだ。
埃を被った椅子の最前列に座りひび割れた偶像を見つめる。
本当は、今まで神の存在を信じた事なんかなかった。
祈る彼の隣で神に祈る振りをしながら、神ではなく彼に祈っていたのだ。

だけどもし。
もしも、あなたが本当に居るのならば。
どうか、お願いします。
もう一度――

落ち葉を踏む音がする。
歩調で判る。
「ここに居たのか、帰るぞ」
違う。
お前じゃないんだ。
ごめん。
俺が待っているのは、お前じゃないんだ。

「知ってるさ」
「何を」
「顔に描いてある」
「っ!?」
俺は振り返ってしまった。
もう会いたくないと思ったのに、もう見たくないと思ったのに、会ったらまた気持ちが揺らいでしまうから。
でも、振り返ってしまった。
いつもと同じ、胡散臭い笑みを浮かべてトキオがそこに居た。
「……嫌だ、帰らない」
不貞腐れた子供みたいだと自分でも思う。
「そっか」
溜め息まじりに言われた。
解ったら早く行ってくれ。
泣きそうなんだ。
俯いて、全身で拒否している事をアピールする。
見ないことで、トキオの存在を意識から排除しようとする。
突然視界が白色で埋った。
「何も食べてないだろ」
受け取らずにいると自分の分を取出して袋を俺の膝に置き、少し離れた席に座った。

「いけないと思うんだこんな気持ちのままじゃ」
この建物は教会としての役割は果たしてしまっているのに機能はそのままのようで、呟いた筈の俺の声はヤケに綺麗に反響して大きな声にしてしまう。
トキオに伝えたい訳じゃないのに。
彼は何も言わない。
パックの豆乳を啜る音が響く。
見なくても何を飲んでいるのか分かるくらい長く傍に居たのに、あの日は突然知らない人間に見えた。
何も言わず自分を受入れているこの男が何を考えているのか解らない。
ただ怖かった。
音を立ててパックを膨らませて口を離して言った。
「つけこんだのは俺だよ」
「それを利用したのは俺だ」
「じゃぁ、お互い様だな」
それで良いじゃないかと彼は許すように優しい瞳で俺を見る。
「でも、きっとこのままじゃいけないと思ったんだ。だって俺にはお前以外の男を思う気持ちが確かにあるんだから」
許すと言ってくれる瞳に俺は首を横に振った。
「知ってるよ。それで、このままでも良いと思ってる。初めて会った時からタマキはカナエが好きだったし俺が好きになったのもそのカナエを好きなタマキで、最初から何も変わってないよ」
「…そんなの、お前に失礼だ」
気にしないでいいのにーとへらりとトキオは笑う。
「さ、帰ろう」
「俺の決心を無いものにしてくれるんだな」
「自分に都合の悪い事なんて無いものにしておいた方が良いじゃないか」
「お前は強いな」
「タマキ程じゃないさ」
「え?」
何故トキオが俺を強いと言うのかわからない。
逃げ出してしまうような俺を。
「早く食べないと冷めるぞ」
袋を指差す。
答える気は無いらしい。
「お前が何考えてるのか解らないんだ」
「そうだなぁ。曖昧な事はそのままで曖昧なまま置いといて、今を続けたいだけ」
「それで良いのか?」
「白黒付けないのも大人の処世術な」
「……俺は子供か」
「食べたら帰るぞ」
いつもの胡散臭い笑顔で言う。
受け取ったビニール袋から肉まんを取り出しかぶりついた。
表面は外気に触れ冷めてしまっていたが中はまだ温かい。
「かなり悩んでお前に鍵を返したのにな」
笑って十字架を見上げた。
こぼれ落ちそうになる全てを落とさない為に。
ステンドグラス越しの太陽が眩しい。

トキオは頻りに帰ろうと言う。
戻ろう、ではなく帰ろう、と言う。
「お前は俺に何を望んでるんだ?」
「お兄さんはタマキが手元にいて愛でられれば満足だし?」
「それだけ?」
「お帰りを言ってくれる人が欲しい。家族が欲しい」
「俺じゃなくても良いじゃないか」
「んー、タマキが良いんだ」
「お前みたいな飄々とした奴でもそう言うんだな」
「それだけお前を手放したくないって事さ」
今度は俺の気持ちとか意見とかを聞く前にトキオは手を握ってきた。
その力強さと、小さく震える手にトキオの不安を見た。
「俺が不安定だからお前を不安にさせてたんだなゴメン」
「タマキが好きだから、俺を好きになってくれなくても一緒にいてくれたらそれだけで良いんだ」
お兄さん、独占欲強いからーと、にこにこと笑って言うトキオの手が冷たい。
冷たいのに妙に汗ばんでいる。
トキオでも緊張するのか。
ずっと一緒にいたのに、本心を見せない彼の本音が初めて見えた気がした。
トキオの手を引っ張った。
「帰るんだろ」
ぶっきらぼうに言ってしまうのは恥ずかしさを隠すためだ。
「あぁ、帰ろう俺たちの家に」
嬉しそうに優しく笑ったトキオの顔が印象的だった。
一人で飛び込んだ教会のドアを今度は二人で潜り抜ける。

朝日に照らされて街が動き出す。
あちこちで工事の音が響く。
カナエが、俺達が、たくさんの人が、命懸けで守った街は立ち直ろうとしている。
以前とは違う形で街は再建されていく。
失った物と同じ物は作れない。
それで良い。


トキオの手を強く握った。
そして一緒に歩き出す。
「そうそう、これだけはもう一度渡さないと」
トキオはポケットに手を入れると何かを撮りだし、俺の手の中に押し込んだ。
「あ……」
「もう返さないでもらえると嬉しいな」

前へ進もう。
これから彼と作っていくまっさらな、輝ける未来を強く強く信じて。



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