自力まとめ12 アラタの愚痴 タマキ視点   2012/10/13 09:03

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信じてくれるでしょ、そう言って横から抱きつかれた。目を見ないで信じてくれるでしょ、と繰り返す。何も言うべき事を思い付かなくて、そうだな、とだけ返した。人差し指の、皮膚の固くなった場所を親指で神経質に擦りながら彼は独白を続ける。手にこびりついた汚れを落とそうとしているようだ。

早く大きくなりたかったんだ。早く大きくなって独りで生きていけるように。僕は母さんのような弱い人ならない。本当に、母さんをあいつから守れるように早く大人になりたかったんだ。言う事が滅茶苦茶だった。母親を憎んでいるのか守りたかったのか。少なくとも俺が言えるのは、俺はアラタが好きだよ。

「うん、皆そういってくれる。優しいからね」アラタは相変わらず神経質に指を擦り続ける。本当にさ、僕は母さんを守りたかったんだ。あの頃僕の世界は母さんが全てで、僕の運命は母さん次第だったんだ。だから、本当だよ。自分に言い聞かせるように、何度も「本当に、」と繰り返す。ああ、そうか。アラタは信じて欲しかったんだ。

アラタが母親を手に掛けたのか、そんな事はどうだって良い。その事を俺は責める事は出来ない。俺も同じ人殺しだ。アラタが信じて欲しかったのは、殺してないって事じゃない。アラタはさ、お母さんの事が本当に憎くて、軽蔑してて、殺したい位嫌いだったんだな。アラタが硬直する。指を擦るのをやめた。

何、を言うの?アラタがひきつった声で言う。それに構わず続けた。俺はその場にいた訳じゃないからアラタがその時何をしたか知らない。簡単に信じるとは言えないよ。これでも警察官だからな。だけどアラタがお母さんの事を嫌いだったけど、同じくらい、それ以上に大好きだった事は信じられるよ。

それじゃあ、駄目かな。アラタの目をじっと見ていると、ボロッと大粒の涙が落ちた。そうなの。誰も信じてくれなかったの。僕が母さんを好きだったって事。母さんを殺したって思われててもどうでも良かったの。でも、本当に好きだったのに、信じてもらえないのが嫌だったんだ。

母さんの事で初めて泣いたかも、といつもの調子で言ったアラタは結局、最初に一粒涙を落としたっきり泣かなかった。愚痴っちゃってごめんね、タマキちゃん!と胸の前で手を合わせるアラタは、いつもの無邪気なアラタだった。





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