BLUESTAR 5   2012/06/17 12:20

「やあタマキ、オミだよ」
不自然なくらい爽やかな笑顔を浮かべて軽く言う。
「久しぶりだね、元気だった?」
銃を突きつけられているのを気にする様子もない。まるで旧友に偶然出会ったように親しげに振る舞う。
この男はいつもそうだ。こうして自分のペースに相手を巻き込む。
芝居がかった大袈裟な身振りでぺらぺらとお喋りをして本心を読ませない。
「見たところとっても元気そうで良かったよ。あ、俺は勿論元気。今は特殊部隊で国家の狗をやってるんだから、まったく、人生どうなるか分からないものだね。しかも今日の任務はナイツオブラウンドの残党狩り。笑えるよね」
「……スパロウっ!」
「オミだよ。覚えが悪いな」
罰としてこれは没収、とあっさり銃を奪われる。折れた右腕を容赦なく掴まれた。
「――っ、放せ」
痛みで目が霞む。
それでも何とか頭を上げてオミを睨む。
「そうそう、その元気。ご褒美にこれをあげる。君を助けてくれる魔法のランプさ」
「ランプ?」
左手に握らされる。
「何となく似てない? 形」
「ふん、銃なんか渡して良いのか?」
「君を助けてあげようかと思ってね」
「どうやって――」
「とりあえずはこんな風に」
握らせた銃の引き金を無造作に引く。
オミの頬を掠めて、入り口近くの壁に着弾する。
「おいっ!」
「これで一発は撃っててくれないと困るんだよね。あと血液型A型だっけ? ああ、これは面倒だから頼もうか」
「何を言って――」
「J-07から本部」
抗議を無視して本部へ連絡を始めた。
「巻き込まれたと思われる負傷者を発見。至急救護を願いたい。負傷の程度にあっては、右下腕骨折、また意識はあるが腹部から大量の出血があり危険な状態」
『了解。至急衛生班を向かわせる』
「了解。ビル外にて待機する。以上」

「という訳で、今から君は部外者」
通信を切ったオミの、場違いに爽やかな笑顔に見下される。
「何考えてんだよ…」
「んー、さあね。――もしもし? オミだけど」
今度は電話をかけ始めた。
「――そう、今のあれ。うん、タマキ。――先に見つけた。いや、タマキだけ。――そう、なんだけど、血がね。どうにかしてくれる? 結構危ないのは本当。……え? あー、うるさいよ。分かったからその辺はよろしく。じゃあ待ってるよ」

「ほんと騒がしい奴だよね。もっとこう、粛々と任務遂行できないのかねぇ」
携帯を仕舞いながら一方的に喋り続ける。にやにやと笑っているのが腹立たしい。
「しかしまあ、君も随分と変わったよ。容赦なく急所を撃てるなんて昔の君からは想像できないな。よっぽど劣悪な環境で過ごしたのか、フィッシュに仕込まれたのか。ま、俺は君に同情しないけど」
ほんと人生どうなるかわからないよね、と笑いながら右腕を更に捻る。
「――黙れ、よッ」
血の塊と一緒に吐き捨てた。
どんな環境かだって? 最悪に決まってる。思い出したくもない。
それが伝わったのか、オミが急に無表情になる。
「興醒めだな。君がどんな2年間を過ごしたかなんて興味ないからどうでも良いけど。ああ、寝てて良いよ、運んでくから」
今までの癇に障る妙に親しげな口調と打って変わって、淡々と告げながら脇に腕を入れタマキを抱き上げた。

――あったかい。

かつてのトレードマークだったストールのかわりにネクタイを締めた首もとに顔を埋める。

体温と鼓動に安心した。


何年振りに眠れるんだろう。
たぶん、随分久し振りだ。


――今度、起きたら『タマキ』を箱から出そう。


あやすように背中を叩かれる


「せいぜい今はおやすみ」




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