BLUESTAR 2   2012/03/24 12:22

「……痛ぇ」
跳ね起きて負傷箇所を確認する。
途中、非常階段にぶつかったのとゴミ捨て場がクッションになったため高層階から転落したにもかかわらず奇跡的に命に別状はない。
頭も打っていない。
撃たれた脇腹も運良く内蔵や筋は逸れている。
「……右手折れてんな。くそっ」
致命傷ではないが、脇腹の傷は早く止血しなければ危険だ。だがカナエと合流している時間は無い。
周辺に待機していたらしい、足音でそれと判る特殊部隊の連中が集まり始めている。
一刻も早くこの場を離れなければ捕獲されてしまう。

――いや、大人しく捕まってしまえば全部終わりにできるんじゃないか?

一瞬そんな考えが脳裏をよぎる。

――駄目だ駄目だ駄目だ。何考えてんだ。俺は約束したんだよ。

タマキは頭を振って駆け出した。

皮肉なもので以前は追う側だったのが今では追われる側として、かつての仕事場を走る。多勢に無勢、装備も何もかもが圧倒的に不利な状況だ。
しかしここは勝手知ったるJ部隊の庭、ナイツオブラウンド襲撃後あちこちから掻き集めた寄せ集めの部隊員よりは地の利という一点ならば、多少こちらに分があるだろう。

二つ先の角を曲がった先のビルに確か浮浪児の溜まり場があったはずだ。
そこなら少し時間を稼げる。
なんなら浮浪児を盾にしても良い。
失血で霞がかかる頭でそんな事を考えながら走った。

一つ目の角の直前、人の気配を感じて咄嗟に発砲する。

特殊部隊の人間だった。
もう一人も緊急発報ボタンを押される前に躊躇いなく顎下から撃ち抜く。
二人とも無線の通信に気を取られていたお陰で助かった。装備品を漁り無線機を見つけ、何とか留め具を外し革ケースごと奪う。


無線機の受信ランプが光っている。命令の通信に対して次々と各班から了解の返答が入っていた。この班も応えなければまずい。

『――A-05、本部了解』
『D-03応答なし、本部からD-03。D-03、応答せよ』
『応答なし、本部からD-03。D-03、応答せよ』

「……D-03、了解」

『……D-03、本部了解。以上本部』
 
 無線機を掴んでタマキは走り出した。
 これ以上長居はしていられない。

 目標のビルに入り、置き去られた家具の陰に身を潜める。浮浪児達は既にこの場所を使っていないらしく、最近人が出入りをした形跡は無かった。
 ついさっきまでは盾にしようと思っていたくせに巻き込まずに済む事にほっとしている自分に気付いて、言い様の無い不快感に襲われる。
 何もかもが今更だ。

 狙撃された脇腹の応急処置をして座り込む。立っているのが限界だ。

 それにしても、無線機が手に入ったのは幸いだった。相手の作戦が筒抜けになる。しかもタマキがいた頃と変わっていなければ、GPSが付いてないタイプだ。
 利き手が使えないのはかなり不利だが、位置を知られずに作戦を傍受できればかなり有利に事を運べるようになる。
 音量を絞り、付属のイヤホンをケースから出して耳に入れた。
 
 ――バカな奴ら。行動中はイヤホン使えよ。お陰様で助かったけど。

 痛みと失血で飛びそうになる意識を何とか保ち通信に聞き耳を立てる。この近辺の包囲は完了しているようだった。

 ――どうするか、考えないと。

 自分がいなくなった後、大規模なスラム掃討作戦が行われたと聞いている。その際にかなり詳細に調査されたのでこの辺りの抜け道や通路は殆ど知られてしまっている事が通信内容から判った。
 地方から派遣されたばかりで土地勘がない連中が相手とは言え、これでは分が悪すぎる。
 覚えている限りの抜け道と、通信内容から拾った人員配置をシミュレーションする。一ヶ所だけ突破可能に思えるルートがあったが、明らかに罠だ。この道は使えない。
 カナエはこの包囲網から脱出できただろうか。通信内容はタマキの事ばかりでカナエの事は言及されない。
 囮になっているなら、それで良い。カナエが無事ならそれで良い。
 このまま寝てしまいたい。
 
 ――しっかりしろタマキ。約束、守るんだろ。

 左手で頬を叩く。
 意識が朦朧として考えがまとまらない。
 イヤホンからはかつての上司の声が聞こえる。さっきの応答で彼は自分に気付いただろうか。
 急速に気が遠退いていく。
 本部からの命令に対してまた各班が応答している。
 『――D-03、応答せよ』
 目が霞む。
 通信に応えなければ。通話ボタンを押し、マイクを口許まで上げる。

 ――隊長、どうすれば良いですか?

 もう目を開けていられない。

 「J-03、了解」

 眠ってはいけないと解っていながらも強烈な眠気に逆らえず、目を閉じた。




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