転送門をくぐると






そこは神界に負けず劣らずの緑が広がる
右を向いても緑
左を向いても緑と大きな湖



目の前には一応家はあるが、茅葺き屋根の小さな家だった

あ、れ……?


行きたい場所と、ずいぶん時代が……



「おや、寅の神使殿ではないですか」

「?誰ですか…?」


呼ばれてふっと家の方を向くと、そこには人にしては強く、あやかしにしては清らかで、神獣にしては弱い気の青年と
彼の背からこちらを覗き込む愛らしい少女が居た。

なんて言うか、仕草や行動がとても愛らしい
思わず眼を輝かせて凝視するとサッと青年に少女を隠された


……………残念




「辰の一族の者ですよ。200年ほど昔、神界にいたのですが記憶にありませんか?」


「………」


さっぱりわからない。
そもそも下界に派遣される神獣は必要ならば時をも越えるから、彼の言う時間軸と私の時間軸が正しいかもわからない

うーむと唸り声をあげると、いつの間にかまた顔を出した少女がきらきらした眼で私を見ていた



「お姫様、すごく綺麗……」


可愛いなぁ、この子
おいでと意味を込めて両手を開いてにっこりと微笑むとおずおずとその少女がこちらに向かい歩いてきて――――――サッと青年に抱き上げられた。残念



「私の妻に手を出さないでいただけますか………貴女ほどの方が、この地に何ようですか」


明らかにさっさと用事を済ませて帰れと言わんばかりの態度に少しだけムッとなるも、少女に見せる優しい笑顔にその溺愛ぶりがわかり、なんとなく申し訳ない気持ちになった


私だって來兎様が誰かについてったら嫌だから、仕方ないね

「それが手違いで来てしまったようで………プレゼントを探しに来たんですが……また上に帰って、降り直さないとですか…」



はああああと深く溜め息が出る
自業自得とは言え、転移の術は一人で行うと負担が大きい
ましてやそれを二往復となると、神界に戻ったらぐったりしてしばらくは動けなくなるだろう


―――――それでは本末転倒だ


ぐるぐるとなんとか打開案が無いか考え込んでいると、不意にいつの間にか近くに寄っていた少女に袖を引かれた


「どうかしましたか?」

「プレゼント、欲しいの?」

「え、はい……」

「お姫様にこれあげる!夕霧と、座敷わらし様と、私とお揃いなの。これ、大切な人にあげて?」


ふにゃりと笑いながら、彼女に小さなちりめんの小袋を貰った
とても良い薫りがする。中には香木が入ってるのかな

「におい袋なの。頑張って作ったんだよ?」
「い、いいんですか?」

なに、この、可愛い生き物
嬉しさと感謝が感極まって
頭をふってこくりと頷く少女をガバリと抱きしめる。するとサッと奪い取られた



「……それでもう用は無いでしょう?さっさと帰って下さい」

「ありがとうお嬢さん!今度、絶対にお礼に参りますね、私は利虎と申します」

「わたしはりり!お姫様また来てね?」


青年の手に抱かれた彼女の頭を優しく撫で
ぎろりと睨む青年に頭を下げてふわりと浮き上がった


これ以上いたら、彼が本気で怒ってしまうかもしれませんからね





















「來兎様、これ下界の愛らしい少女に頂いたんです」

「いないと思ったら、そんなところに行ってたんですか?とても良い薫りですね……ありがとうございます」


寄り添って、抱き合って
今度は、二人でお礼を言いに行きましょうねと約束をした
ありがとう、可愛らしいお嬢さん
あなたのおかげで幸せな一時を過ごせました




『小さな少女に貰った、可愛らしい贈り物』




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