彼女と初めて出会ったのは、昔僕が勤めていたゲームセンターだった
「あああああっ、もう!!ちょっと店員さん!!これ直してよ」
ゲームセンターで勤めているものの、ぬいぐるみなどは正直在庫として残られても困るし、貰ったとしてもあげるような友達もいないし邪魔としか思っていなかった
だから、彼女が
怒りながら僕につめよって来たのが不思議でならなかった
そんなに欲しいんだろうか
「これでよろしいですか?」
と聞き返した言葉よりも早く、目を輝かせてとりやすくなったぬいぐるみを狙い500円玉を投入する彼女
ショートパンツから惜しげもなく白いふとももを晒し、さらにはどーんと豊満な胸を主張する服装のわりに
ぬいぐるみに夢中になる彼女を素直に可愛らしいな、と感じた
しかし、彼女はその僅か五分後
UFOキャッチャーのガラスを磨いている僕の元へとまた来た
「……また直して下さい」
ぶっすぅ、とむくれながら言う彼女に笑いそうになりながらもなんとか堪え
「どの景品になりますか?」
彼女について行くと、連れていかれた先は先ほどのキャッチャーだった
違うぬいぐるみかと思ったが、そのキャッチャーの中には先ほど取りやすく取り出し口近くに置いたはずのそれが、何故か取り出し口から遠く離れた場所にあった
不思議に思いながらも直す
そしてすぐに500円玉を投入する彼女
そして、またすぐに僕の元にきた彼女
三回目の手直しの後、近くで彼女のプレイを見てみると
「ああああ、もう取れない!!!!」
彼女は壊滅的に下手だった。
イライラし始めたのが分かりやすく整えられた眉を吊り上げる彼女
その目は狩人のようで非常に魅力的で
なのに実際には狩りが下手で
「………ここ狙ったら、取りやすいですよ?」
つい、そんなことをぽつりと呟きながら教えてしまった
「マジですか!!」
そしてすぐに実践すると、今までとは違いぬいぐるみは浮いた………………が、落ちた。
「あああああああ!!」
何よりも
そんな些細なことで悲鳴をあげる彼女が可愛く感じた
「朧!!あんた何してるのよ!!」
ムカムカする彼女の隣で、結局ニコニコ笑いながら取り方を指南していると
悲鳴のような声が聞こえて振り向いた瞬間…………彼女が僕から引き離された。別の女性によって
「なにって、ぬいぐるみ取ろうとしてるだけだけど」
「違うわよ!!この人……」
明らかに嫌悪感丸だして僕を見るその人の態度に、僕は初めて気がついた
『蛇じゃない』
彼女達が、人間ではないことに
耳に聞こえるのは人には聞こえない音
僕の種族はちょっと得意なメンタル面から嫌悪されがちなのは知っていたが……少しでも惹かれた彼女に嫌われるのは嫌だった
けれど彼女は
『だーから?蛇だからどしたの?私はそんなことより目の前の敵のが重要だけど』
僕が蛇でも、気にしなかった
その瞬間から僕は彼女に夢中になった
一度愛すると何よりも深く深く愛して、邪魔物を呪い殺す蛇
嫉妬深くて独占欲が強くて、愛して欲しくて
ストーカーになりがちな僕たちの性質は知っていたが、理解していたが
僕もその例に外れず彼女にはまった
けれど彼女は
「ストーカー?あはは、まぁ回りの人に迷惑かけないなら御自由にどーぞ」
そんな僕をも、ある意味受け入れてくれた
こんなの、夢中にならないわけ無いんだ
彼女を求めて仕事も変えた
彼女を求めて自宅も変えた
毎日毎日彼女に付きまとい、夜は蛇の姿で彼女の家に侵入してもケラケラと笑って許してくれる彼女
月夜の晩は体を重ねて
それ以外の晩は彼女の寝顔をじっと見つめて
どんどん熱くなる想いを持て余しながら
僕は、未だにストーカーから脱却出来ない自分にため息をついた
『何度愛をささやけば君は僕のものになりますか』
「朧……あの人気持ち悪くないの?」
「んー?いやぁ愛されてるって感じがして良いじゃん」
「なに……もしかして朧もあいつのこと好きなの?」
「まだだねぇ。もっともっと深く愛してくんなきゃ、私の想いには釣り合わないよ。狼は狙った獲物は血肉喰らいたいほど激しく生涯愛するんだから」
彼女がそんなことを笑いながら話していることを、彼は知らない
「……………ってちょっと待ってください朧さん!!し、城柳さんとシテるんですか!?告白断ってるのに!?」
「いやだって発情したときにすぐそばにいるからさぁ。男漁る手間が省けて楽って言うか」
「そんな、そんなの酷いですよ……」
「かと言って城柳の目の前で他の男釣った方が厄介だよー?ちなみに発情入るとヤらない選択肢は無い無い、性欲強いしねー」
「…………」
「まぁ、たまには御褒美あげないとね。追いかけるだけってのもしんどいっしょ」
「……もう付き合えば良いのに…」
帰