甘い甘いバニラの香りのコロンに
生クリームみたいにふっわふっわにカールしたホワイトの髪
長い睫毛に彩られたぱっちりおめめはストロベリーピンク


にこにこと笑顔を振り撒けば、回りはそれだけで幸せになれる甘い甘いショートケーキ
リボンで飾られた全身を甘く可愛く包むふわふわのドレス

至高の傑作の『ソレ』は
自慢か見せかけか
はたまたそれ以外の何かか


とにかく事実はわからないが、今日も値段をつけられずにショーケースの隣に並べられる



『けーきやさん』




「…………すみません、このケーキもらえませんか」

「お客様、冗談もほどほどにしてください」


ゴクリと唾を飲み込みじぃぃいいいっと私を見つめるお客様に、ニコリと笑うと
お客様は悔しそうな顔をして私の髪を撫でてから甘いケーキの箱を持ち店を出ていった

おずおずと、ショーケースの横から顔を出してビターを覗き見ると
ビターは冷たい笑顔でお客様に手を振っていた


「ありがとうございましたー………二度と来るな豚野郎が」


ぜんげんてっかい
ビターは怒りながらお客様を見送っていた
カランカランとお客様が出ていった後、扉についた木製のベルが鳴るとこちらを向いたビターとばっちり目があう

ひゃっ、と声にならない声をあげてかくれるけど

「ショート」


感情の籠らない声で名前を呼ばれ、おずおずとまたショーケースから顔を出す
そうすれば今度は眉間に皺を寄せてわかりやすく不機嫌なビターと目があった

「もうさ、裏に入らないかい?売る気なんか更々無いのに表になんかおきたく無いんだけど」


イライラトゲトゲした声で言われて
悲しくなって目が温かくなる
『私』はパティシエである『ビター』の最高傑作のケーキで

彼の自慢であるはずだったのに

そんなにも、バックに下げたいほど気に入らなくなってしまったのだろうか


涙を堪え俯けば、慌て出したビターがエプロンを置いて私を抱き上げた


「あー、もう泣かないでよ。ショートは僕だけの大切なケーキであれば良いんだからさ」


目頭にちゅ、とキスをされてからぺろりと舐められ
髪を飾るピンクの長いリボンの先端をくわえると彼はそれを引っ張って、リボンを取った


途端にばさりとほどける髪
ビターによって綺麗に飾られた『私』が崩され、悲しくて悲しくてそのままビターにしがみつく


「ほら、休憩時間になったら食べてあげるから、部屋で大人しくしててよ」

そんな私を、私室に置くと
ビターはまた店に戻っていった………









産まれてこの方、ケーキ一筋25年
ケーキを作りケーキを追求することにしか興味が無かった僕を憐れんでか………


ある日
今までで一番最高傑作のショートケーキが出来たその日


『神』を名乗る男が現れた、僕が作ったショートケーキを人へと変えた
正確には、僕のケーキへの思いがあまりにも強かったためショートケーキをショートケーキの精霊へと変えたらしいけど



そんなのどうでも良い

元来ケーキにしか興味が無く
その中でも最高傑作であるケーキが人になった


これ以上の喜びは無い

その日から僕はショートに夢中で彼女にしか興味が無いのに、閉じ込めて自分だけのものにしたいのに


肝心の彼女は、僕の最高傑作と言うことを自慢したいのか店に出たがる


そんな可愛らしい彼女を欲しがる人は多い
彼女はそんな人にも愛想を振り撒くから



………僕は今日も甘く愛せずに終わってしまった





『非売品ケーキを置くけーきやさん』


彼を甘くするのも苦くするのも、全ては彼女次第






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