「…………はぁ。」

不覚だ。一生の不覚だ
詳しく名前にも出せない病FiL(Fall in Love※恋に落ちた)に侵されてから常時脳裏には特定の男性が居る

そのせいで集中力は途切れて、薬物の些細な調整が出来ない


なのに、毎日毎日舐めとけよってレベルの擦り傷の患者が押し掛けて来るから落ち着く間もない。まさに最悪の展開

調べたい配合の薬も患者もたくさんいるのに、もう本気で勘弁してもらいたい……


勘弁して貰いたいと切実に思っているのに


「リゼっちさぁ……好きな野郎出来たって」ガッシャーン!!!!


心と裏腹にどうしたって体は反応をしめす
傷薬の薬壺を落とし動揺する体は真っ赤になっていた


そんな私とは裏腹にかすり傷でわざわざ医療室を訪ねてきた兵士の一人は沈んだ顔をしてから、あはは……と笑いながら出ていった



ほんと、困る


ため息をつきながら割れた壺の破片を拾っていると、またぼんやりとアレンさんを思い出して………指先に走った痛みで我に返った
「…………はぁ。」


こんなんじゃ、夢は叶えられない


王宮御用達の薬師になれば、今とは比較にならない研究費が貰える

研究費があれば、今は輸送費がかかりすぎるから個人で少量しか買えない薬草も大量購入が出来るし

研究費で買った薬草で、城だけじゃなく街の人たちにも薬を届けてあげることが出来る



………この国は、薬や医師の設備が弱いため街の人たちの大半は病や怪我を民間療法や自然治癒に任せている。そのせいで年間200人は亡くなっていると言うのに、薬の専門家が存在しないと言う理由で国は設備を整えない


ちゃんと診れば治るのに
それができずに亡くなってしまうなんて、医師のはしくれとしては悲しい限りだ


キズァ老師は御用達の薬師になれなった代わりに入手困難な薬草の栽培をしている。私もそれを分けて貰い勉強にも使っている



期待、されてるし
私はその期待に、応えたいんだ


だから、こんなんじゃ駄目だ。駄目なんだよ


たかがFiLのために犠牲の連鎖を続けるわけには行かない





「…………あああああ、もう!!うざったいなぁ!!」





って頭ではわかっているのに、どうしようも無いのがほんときつかった




もう国王に頼んでさっさとあの人たちに帰ってもらうように頼もうかな



そんな企みをすればズキンズキンと痛む心臓


本当に厄介だ


何度目になるかわからないため息をつきながら

私はそのままベッドに倒れ込んだ


『治療法が見つからない』


この国から出られない私じゃ、彼を求めることも出来やしないのにね



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