「気味わりぃ女!!何笑ってやがんだよ!!」
ガンっと看守に檻を蹴られ、鈍い音が牢獄に響いても私の笑みは崩れない
────早く、早く、
完璧な形でシーザー様の計画を終わらせて。
明日で私の命は終わる。明日でシーザー様の予定を完遂出来る
そう思えば私の最期には喜びしか無い
舌打ちをして看守が去っていくと、格子のついた窓から外を見上げた
月は、見えない
けれど月明かりはうっすらと入ってくる
────月明かりも、松明の明かりもいらない。闇はシーザー様のシンボルのようなものだから暗ければ暗いほど私は嬉しい
好き。大好き、愛してます
恋も知らぬ少女の頃に、私の全ては貴方のものになったんです
シーザー様の役に立つためだけに存在しているんです
だから…………
「………来い。さっさと帰るぞ」
貴方はここに来てはいけないんです。
くるりと振り向けば、牢屋の扉を開けて佇む闇に包まれた愛しい人
彼がここに来てしまっては、何かと問題になってしまうのに……
初めて
彼に向かって眉間に皺を寄せた表情を見せる。それでもなるべくシーザー様の中では美しい私でいたくて、困りながらも笑みを浮かべた
「明日処刑される国家犯罪者ともなれば今更揉み消しも出来ませんし、私はシーザー様の迷惑にしかなれません。ですから、シーザー様の元へもう一度参るわけにはなりません」
キッパリ断り頭を下げても、シーザー様の表情は変わらない
変わらないが、彼は苛立った様子で思いっきり牢屋の扉を蹴った
その大きな音に思わず竦み上がる
「お前にはまだ利用価値があった。だからさっさと来い」
「人前に出せない厄介者には今更価値も無さそうですが……」
「お前は人前に出せずとも、お前の子供なら出せるだろう」
「は……?」
よく、わからない
ぽかーんと間抜けな表情で見上げるとシーザー様はぎこちなくぎこちなく、
わらった
それだけで私の心臓は急速に高鳴り出す
この愛しさは死んでも直らない
「リコリス、お前は死ぬまで俺の部屋の中で俺の子を孕み続けろ。それがお前の最期の仕事だ」
呆然とシーザー様を見上げる
そんな、そんなの、仕事じゃない
そんな、そんな嬉しいこと………
「人前に出せずともお前は俺の妻だ。………ほら、おいでリコリス」
初めて耳にする甘い、優しい声で囁かれて
よろよろとシーザー様の元に近づく
差し出された手を取ったとき
私は、もう一度シーザー様の所有物になった
光と同じだけ、闇を孕んだ大国
そんな闇を支配する男の隣には、聖女と呼ばれた娘が居たという
光は聖女を闇から無理矢理奪ったが、そのせいで聖女は鬼女と化し殺戮を行なった
光はずたぼろに壊されたが、数年後闇の主のよこにはまた聖女が現れたと言う
嫉妬に狂った光の生き残りの男は叫んだ
何故、あいつの元にばかり『価値』あるものが集まるのか、と
あなたには、どんな価値がありますか?
価値 END
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