彼女は気丈にも、涙ひとつ見せずに表情を強張らせたまま教会に旅立っていった

凄いよなぁ、俺には無理だよ。俺なら思いっきり反抗するけど、リコはそれが出来ないほどシーザー主義だったみたいだ

それに引き換え……


「……なんだ」

「べーつにー。あーんなに可愛がってたくせにさー、何考えてるのかなーって」


うちの御主人は明らかに後悔丸出しの凹みまくった顔で書類を書いていた
気付いてるのかなぁ、シーザーが着てる服が特にリコが『シーザー様素敵です!!』って喜んでいたやつだってことに

「……あれを手元に置くデメリットの方が大きくなっただけだ。あいつはもう用済みだ」

「そうですねー。シーザーが言えばリコはどんなに嫌でも絶対に戻って来ないでしょーねー」

そしてチラチラと扉を見てはため息をついてることに

そんなことをしても、リコは逃げてこないだろう。シーザーが行けと言ったらあいつは絶対に行ったままだ。

帰ってこないってわかっててあんなにお気に入りの少女を手放すなんて何を考えてるんだろう


俺の追い討ちに仏頂面主人はさらに凹んだ
けれどちょっとイラつく今、それを慰めてやる気にもならない


「あーあー、俺もリコリスは気に入ってたのになー。これからリコリスは教会で暮らしてー、教会の偉いやつと結婚してー、SEXしちゃうのかー」


ズーンズーンズーンと、どんどんシーザーの目に見えない重石は増えていき
ついにペンを置いたシーザーはギロッとこちらを睨んだ


「お前が悪い」

「は?おれ?」

「リコリスは俺にはいつもひれ伏すのに、お前には無邪気になついて……結婚する、とか、言うから……」

悔しそうに悔しそうに睨んで来るけどさ、うん。ちょっと待ってよ

「もしかして、シーザー俺に嫉妬したのー?えー、ばか?バカじゃないのシーザー」

「………うるさい」


目を逸らしたことでそれが本音と悟り頭が痛くなってきた
あんだけ愛されてたくせに何を言ってるんだろうか

バカだ。とりあえず、バカだ。いやもう究極のバカだ。

「もうさー、手遅れになるまえに早く捕獲しに行ってきなよー」

「……リコリスにはこんな暗闇よりも、日向の方がよく似合う。あいつは明るい世界で幸せな笑みを浮かべるのが一番だ」



そんでこんなこと言っちゃうし
リコがシーザー無しで笑うとかあり得ないのに

それに一度闇に染まった人間が明るい日の本をまともに歩けるはずが無いのに


ましてや、リコは産まれたときから酷い家庭だ。幸せはここ以外では知らないと思う



うーん、どうすればシーザーがリコを連れ戻すかなぁと思案するも
まともな良案が思い付かないまま数日がたち







─────そして俺たちは驚愕した。


「─……罪人リコリスを、処刑?」

「はぁっ!?なに……『教会の人間を惨殺したつみにより闇に落ちた聖女を処刑……』……おいシーザー」

ある日突然ゴシップ誌の一面を飾ったネタ
そこには俺たちのリコリスの処刑と書かれていた






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