シーザー様が聖女を囲っていると言うのはあくまで噂だった
別に真実が知れたところで何も変わらないと思っていた
だって私はシーザー様から離れるつもりなんかさらさら無かったから




「それでですな……そのぅ、」


チラ、とアブラギッシュがタキシードを着た感じのおじさんが私を見た
たぶんこれは席を外せと言うことだろう


こんな、王宮主催のパーティーで裏の主のシーザー様に直接交渉をするとは凄いチャレンジャーだ


「それで、なんだ?」


だけどいくらチラチラ見られても、私の脇腹にはシーザー様の右手が食い込んでいる
その意思は離れるな、と言うもの

喜んで離れません。と私もシーザー様の腕に腕を絡めて擦り寄る

私が離れれば、ちょっと怖いけど権力もあるしカッコいいシーザー様はたちまち女性と娘を売りにきたおじさんに捕まっちゃうからだ


だからシーザー様はパーティーではいつも必要以上に私に触れる
抱き締められるのもよくある

そんなことをされるのが嫌なわけが無い。むしろ大喜びだ

「……アルテミ、おいで」

シーザー様が私を離す意図が全く無いと悟ったのか、ミスターアブラギッシュはため息をつきながら一人の女性を呼んだ

その女性はシーザー様と同い年くらいの、おっぱいどーん!!な強烈な化粧の美女だった

睫毛ばっちばっちで、キラキラ光るファンデーションも固めこまれてる。あの、首と顔の色が違います

あまりの美女オーラの凄まじさに、いや威圧感にちょっと引く


「これはうちの自慢の子のアルテミでございます」

「初めまして、ガイス様。お目にかかれて光栄ですわ」


アルテミさんが笑うと威圧感がさらにぶわああっと来た。それもあんた邪魔だから消えなさいって言う恐い方の

「……それで?」

それでも私もシーザー様も動じない。動じない所か挨拶すらしないで媚びを売る女の人をスルーするあたり、化粧嫌いだなぁと思う

「もしよろしければ、これをガイス様の妻にと思いまして。これは妻としての心得も教養も一流のものでございますよ」

「初めてお見かけしたときからお慕いしておりました……」

少しだけ目を伏せてから、頬を染めて上目遣いでシーザー様を見上げるアルテミさん。うん、まるで教科書通りの仕草だなぁ

けれどそんなものがシーザー様に通じる訳がない


「……女なのか?悪いがあまりに化粧が濃すぎて気付かなかった」


あっぶない。シーザー様のあまりの切り返しに思わず噴き出しそうになり、慌ててシーザー様の腕に顔を埋める

シーザー様のそれと、私のこれが気に入らなかったのか
アルテミさんが怒るのが空気で感じられた。でもそれはすぐに化粧の仮面の下に下がった

さすが私がいながら堂々と紹介されるだけあるなぁ

「確かめてみられます?ベッドの中ではシーザー様に全てをお見せしますよ」

露骨なあれに呆れると、グイっと力強く脇腹に力が入れられて
流れるような自然さでシーザー様の方を向くとそのまままぶたにキスをされた


「夜はこれを抱かねば寝られないから無理だな。昼間は仕事で忙しい」

ざわっとそれまで静かに覗き見ていた周囲が湧いてさすがに恥ずかしい

けれどここで拒んだりしたら私の女避けとしての仕事をさぼることになるから
へにゃりと笑って、私からも背伸びをして彼の頬にキスをする

大好きですシーザー様

恋情も愛情も友情も親愛も、私の全ての好意の感情は全て彼のために

彼のためになるなら命さえも捧げられるレベルではない。私はそれほどまでに深く深くシーザー様が大好きなんだ


バタリ






そのとき
不意に誰かが倒れた────……



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