「ここが家だ。知りたいこと、学びたいことがあるならこのじじいに聞け。大概のことは準備してくれる。1ヶ月後にお前の未来に価値が見いだせそうか試しに俺の一日を使ってやるからせいぜい自分を磨くんだな」


「わかりました」


よろしくお願いしますね、と皺だらけの優しい笑顔を浮かべたおじいさんと握手をしてる間にシーザー様とアレクさんは何処かへ行った

目で二人の背中を追いかける


私を拾ってくれた恩人と、恩人を支える人……夢もなりたい私も何もないせいか、素直にアレクさんみたいになりたいと感じた


「まったく、このような幼子にも厳しいとはやれやれ。私の名前はオル=テガ、オル爺さんとでも呼んで下され」

「礼儀作法とか、ちゃんとした言葉とか教えてください」

父ちゃんより大きなオル爺さんさんをまっすぐに見上げて、ぺこっと頭を下げると
オル爺さんさんは声を上げて笑い出した

きょとりとする間にふわっと抱っこされて、オル爺さんさんと目線が同じくらいになった


「ほっほっほっ、まずはお名前を教えて下されますかな?あとお風呂にも入りましょうな。お勉強はそれからですぞ」

「リコリス、です」


それから私は、10日間かけて正しい言葉と礼儀作法を習った
『オル爺さん』までが名前だと思っていたのは恥ずかしい良い笑い話だ


そこから残り20日。私はこの期間で価値を見つけなくてはいけなかったが




一つの私の長所はすぐに見つかった。けれどこれだけじゃ足りない。もっともっと、他にはない価値を身に付けなければ




シーザー様のお側には、置いてもらえない



日が過ぎるにつれて、私はオル爺さんの他にもメイドのお姉ちゃんたちから色々と聞いた


シーザー様はこの国の暗部を支配する人で
彼は権力も財力も………兵力も、最高のものをもっているらしい
シーザー様は悪い人たちの一番偉い、カッコいい人

聞けば聞くほど、今の私じゃまだまだ弱いから気絶を繰り返すほど
オル爺さんが心配して止めるほど
ドクターストップがかけられるほど、鍛錬を重ねた


どの制止も私を止めることはできずに、私は意識が続くかぎり鍛錬を重ねた





産まれてからずっと、死と隣り合わせだった日々は私に想像以上の生命力を与え
私は、無理をすればするほど強くなっていった






そして


「行くぞ」

「はい」

おままごとのような、子供には似合わないスーツを着て
迎えに来てくれたシーザー様に駆け寄る


逢えたことが嬉しくて嬉しくて、ふくふくとした笑いが止まらない
そんな私を、にやけてんなよとアレクさんがあきれながら頭を叩いた


んしょ、と背中に背負った抜き身に布を巻いただけの巨大な剣が邪魔で馬車の中では座れなかったから立ちっぱなしで居る

「リコちゃーん。あのさぁ、頑張ってるとこ悪いんだけどー、うちには強い戦士のお兄さんいっぱいいるからそれだけじゃダメだよぉ?」

「大丈夫ですアレクさん」



私がシーザー様に頼んだ、私の価値を見せる場所は
シーザー様を裏切った愚か者の制裁場所だった


町外れの牢獄の中に居たのは
─────




「レナ!!無事だったのか!?」




私の父親“だった”人だった
みすぼらしい身なりも、無精髭もぼさぼさの髪も何も変わらない

鉄格子を握りしめこちらに手を伸ばす父親に笑いかけながらゆっくり近づくと…頭上に両手を伸ばし、二つの掌でしっかりと剣の柄を握り


ブンッと勢い良く前に振りかぶり、その反動で布を吹き飛ばす


本当は鞘もあったんだけど、私の身長では抜けなかった


「お、おい…やめろよ、こ、殺す気か」

「殺さないよ」


構え、格子の間のお父さんをしっかりと狙う


「殺さないから、避けないでね」


そしてにっこり笑いながら、








「う゛、う゛わ゛ぁぁああああああ゛!!」



勢いよく父さんの体を大剣で突き刺した

そしてすぐに目を細めて詠唱を開始する



『光よ、大自然よ、あまねあまねく生命のエネルギーよ。今我が元に集いその恩寵を示したまへ……トータルヒーリング』



剣を刺したまま
父さんの体は光に包まれた



そして光が治まってくると、剣を引き抜く


「命令が無ければ殺さないけど……シーザー様に逆らった罪として、穴の空いた体で生きなさい」


あとに残ったのは
胸元にぽっかりと剣で貫かれた穴が残る、けれど傷ひとつ無い父親の体だった


「な、なっ、」

父親は戸惑うが、当たり前だ。穴は空いても痛みは無いからまるで夢みたいな状態だろう



くるり、と後ろに向き直りそれまでを見守っていた二人の前へ戻り


服が汚れるのなんか気にせず跪く


「私の価値は発展途上の戦士と、聖女クラスの回復魔法です。これではお側には置いて貰えませんか?」


見上げたシーザー様は、目を細めて笑った
その厚みのある唇からの拒絶が怖くて心臓の音がドンドン大きくなる



「……犯罪を犯す聖女か、面白い。リコリス、これからは寝るときまで常に俺の側に控えろ。お前は俺が汚してやる」




その言葉を聞いた瞬間、ボロボロと涙がこぼれた




そして私は10歳と言う若さでアレクさんと同じシーザー様の側近になった



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