研究所は実質壊滅した
邪魔者は消した
後は、俺が作った居場所でベータを守りながら一緒に暮らしていくだけで
「……可愛い服も買ってやらないとな」
そんな未来を想像すれば笑みも溢れるし浮かれもする
体に返り血がつかないように気を使ったおかげで俺はそのまま女物のショップに入った
………俺は外の世界に出ても、何にも興味を持たなかった。だから金だけは結構蓄えもある
たまに俺に言い寄る女で狂いそうな程のベータへの渇望をはらそうとしたが、無理だった
極上と言われる女でも
ベータと同じ髪色の女でも
素朴な優しさが似ている女でも
人間であるだけで萎えてしまい、不能と罵られたり心配されたこともあるけど
なんのことは無い
俺は心底ベータ以外には興味がなかったんだ
優しい彼女には優しい色が似合いそうだから
オレンジ色の、装飾が可愛らしいワンピースを買った
さすがに長く引き離されたせいでベータの趣味はわからないから、次は二人で来よう
ベータが望むものなんでも買ってあげたら
あの柔らかな微笑みをくれるのかな
興味は無かったが、この店はブランド店だったのかワンピースは立派な紙袋に入れられた
「……早く逢いたい、な」
急かなくてもベータは逃げない。それがわかっているから色々と土産を買ってやりたいと思うのに、それ以上の欲求で彼女に逢いたくて逢いたくて仕方がない
明日、一緒に買い物に行けば良いか
ベータに世界の外を案内もしたいし
結局俺は
逢いたくて仕方がないから、その欲求に従った
このとき、買い物なんかしなかったら
俺達の未来は違っていたのかな
「………ベータ、ただい……」
アジトであるビルに帰宅して、真っ先にベータの待つ部屋に行ったが
そこには彼女の残り香が漂うだけだった
ちら、と扉のドアノブを見るが中から壊された形跡も無い。そもそも彼女に壊すような力は無い。ベータの身体能力はただの女性のソレと変わらないんだから
「キタムラが風呂でも連れてったのか?」
となると、鍵を持っているキタムラが連れ出したしかない
慌ててキタムラを探して部屋を飛び出した
「キタムラ、ベータは?」
キタムラは、居た
広間で仲間たちと押収した研究書類を確認していた。けれどベータは見当たらない
「そんなことよりアルファ、これ見ろよ。あの化物の細胞だぞ。あの化物、こんなちっさな肉片になっても生きてやがる」
小さな試験管に閉じ込められた小さな肉の塊
そんなもの見せられたって興味もない
「どうでも良いって。なぁベータは?」
「あとガンマって奴は記憶や精神を操れる化物だったみたいだな」
「いやどうでも良いから。ベータは?」
「お前も疲れてるだろ?今日はゆっくり休めよ」
「ベータはどこにいるんだよ!!!」
さすがにこうもあからさまにはぐらかされるのは好きじゃない
バン!!と机を殴るとその場の全員がシーン…と静まり返った
静寂の中で、俺はキタムラを睨み付ける
はぁ、とつかれたため息
「ベータは違う施設に移動させた。あの子が側に居ればお前は我慢出来ないだろ?」
漏らされた言葉に耳を疑う
「俺はお前たちを人間、だと思っている。だからこそお前たちに流れる化物の血は薄めるべきなんだ」
キタムラは昔からずっと俺の味方で
ベータ以外では唯一信頼できる人物で
「俺は間違ったことは今まで言ったこと無いだろう?あの子のことは丁重に大切に扱うから心配するな」
大好きで、大好きで、
「ベータのことは、もう忘れろ」
─────大好きだったよ。
「………キタムラは、俺を裏切ったんだな」
「アルファ?ちが、落ち着け!!」
ゆっくりと
服の下の肌が変質するのを感じた
メリメリと皮膚が盛上がり、視界がどんどん高くなる
「ひ、ば、化物!!」
寄生悲鳴を上げて人が逃げるのが見えたら無意識に体が動いた
けれど動いたものは、手でも足でも無い
身体中から生える触手だ
「落ち着けアルファ!!俺たちはお前の仲間だ!!」
「俺からベータを引き離すんなら全て敵だよキタムラ。ベータに逢うためなら怒りも苦しみも我慢できたけど……」
「ぎゃあああああ!!」
ギリギリと
触手がその場に居た全ての人物に絡み付き
うねうねと動き、人間を壁や床に叩きつけてビルを破壊する
自由なのはキタムラただ一人
俺からベータを奪い取ったキタムラだけ
俺からベータを奪い取った
憎い憎いキタムラ
「いま、我慢したら」
パキパキと音が聞こえると
急に視界が広くなった
『ベータと引き離されるんだろう?ソンナノは、ユルサナイ、ユルサナイ』
あのとき見た化物になるのを実感しつつも
俺にはそれを止める気は更々なかった
「あ、アルファ…」
『ウワアアアアア!!!!』
化物、らしい咆哮をあげて
キタムラを瓦礫で叩き殺しながら
俺はその時、本物の化物へと変じた
帰