濃い精液と愛液の臭いが充満する部屋の中で
互いに満足するまで体を重ねた私たちは昔みたいに抱き合って眠りに着いていた


桁外れの体力を持つアルファに
桁外れの回復力を持つ私は、最後まできっちりついていけた


そういえば、あれの体液には媚薬効果があると書かれていたっけ
ならば私たちにもその性質は受け継がれているのかな。私の血液からはそんな物質は検出されなかったけど



そんなことを思いながら、パチリと目を覚ました


汚い部屋ははじめの印象通り汚く
けれど窓から差し込む明かりで少しだけ綺麗に見えた

体を起こしたくてもアルファに強く抱かれるせいで身動きは敵わず、仕方がないから近距離で久しぶりのアルファをマジマジと観察する


黒髪も似合っていたけど
明るく笑う彼には、金髪もよく似合う

目は少しだけタレ目で童顔だけど、多分人間の女性好みの性格なんじゃないかな


確かアルファの母親は……キタムラ・リョウコ。あのキタムラ博士のお姉さんで日本人だったかな
キタムラ博士も割りと童顔だったから、これは日本人の特性なのかもしれない


本当、母親が違うだけあって私たちはみんな見た目は全く違う


私の腰まである長い艶やかな髪は赤茶で
目の色も綺麗な緑だ


“あの子”は綺麗な金髪に碧眼だし


これでは、アルファが私を妹として認識せずに女性として認識してしまうのも仕方がない
そしてあの子も私を女性として認識してしまうのも


「…ん、べーた…?」

「おはよう、アルファ」

もそもそとアルファが動くと、あどけない表情を見せながら彼は目を覚まし
へにゃぁっと、昔から変わらない無垢な笑みを浮かべると私に抱きついてきた


「べーただ、べーた。んー、すきー」

すりすりすりと、甘えるしぐさは可愛くも感じるが
………押し付けられた下半身は全く可愛くない。さすがの私もまた理性を手放すわけにはいかない

「アルファ、私はそろそろ戻らないと」

「……まだ、そんな馬鹿なことを言ってるんだ?」


手で軽く押すけど、それ以上の力でがっつりと抱かれた
そして低く囁かれた声に秘められた怒りに少しだけ昨日のおじさんを思い出して恐くなる

でも、アルファだから
きっと大丈夫だ。彼は話せばわかってくれる

「良い?ベータ。俺たちは世界に二人しかいないんだから、ずっとずっと、ずーっと一緒にいないといけないんだよ?」


大好きな、アルファ。
そして同じくらい






大好きな、ガンマ。


「二人じゃ、無いよ。アルファ達が出てってから受胎成功して妊娠していた三人目が……ガンマが、産まれたから」

「は……?」


アルファがいなくなって
恨みも後悔もしなかったけど、


寂しかった


感情を表す人がいない、変化の無い終わりの無い世界


寂しくて、寂しくて、寂しくて
壊れそうで、壊れたくて、壊したくて


そんな私の寂しさを埋めてくれたのは、産まれたばかりのガンマだった



「あの時までは私はアルファに支えられていたけど、あの時からはガンマに支えて貰っていたんだ。だから今度は昔私がアルファに支えられて貰ったみたいにガンマを支えてあげないと……あの世界に一人じゃあの子は本当に化物になってしまう」


寂しさのあまり、全てを壊してしまおうかと思った
化物になるのが怖くて世界の中を選んだくせに、そのせいで逆に化物になりかけた何て本当に滑稽だ


そんな私の抑止剤として差し出された、産まれたばかりの弟
弟がいたから
私はお姉ちゃんだから

お姉ちゃんだから、壊れずにがんばって来れたんだ



「だからね、私は戻らないといけないの。……ごめんねアルファ」

険しい表情でこちらをにらむアルファの、ごわごわの髪を撫でてやる
けれど昔とは違い、これだけではアルファの機嫌は直らなかった



直るわけないほど、アルファも外の世界で病んでいたなんて

私は、知らなかった



「許さない」

「……アルファ」

そのときまでは、駄々を捏ねるアルファをたしなめるお姉ちゃんのつもりだった


けれど、現実は私が考えるよりも重く残酷だった



「ベータが俺以外を選ぶなんて、許さない。三人目なんかいらない。選ぶなら殺す。俺たちは俺たちだけで良い……」

「アルファ!?何言ってっ…ぁ、っ、」


無表情で虚ろな眼差しのアルファの物騒な発言に驚くと
小さな時はずっと握りあっていたアルファの手が








私の首を絞めた





「ぁ、ぅ……っ、ゃ…」



いくら回復が早いとは言え痛みは感じるし、痛みの原因を取り除かないと治りもしない


ギリギリと、容赦無く締められる首
呼吸も出来なくて、苦しくて、怖くて





だいすきな、だいすきな あるふぁが
まるで べつじんに みえた


「大丈夫、ベータは心臓や頭を撃ち抜かれても死なないんだろ?これぐらいじゃ死なないよ。……でも分かった?」


手が離れると、どさっとその場に倒れ込み
肺が一気に酸素を求め、求めるままに吸いすぎて、噎せて咳き込む


苦しかった。痛かった。多分、私じゃ無いなら死んでいた

優しい優しいアルファがこんなことするなんて信じられ無かった


………それでも、事実から目を逸らさせてくれないアルファは優しく私の頬を撫でた





「ベータが俺から離れるなら、その三人目とやらはこうやって殺す。ベータは俺の側にだけいればいいんだ」


無邪気に笑う、壊れた兄さん
そんな彼を嫌いになれない私も、壊れているのだろうか






結局私は

白い世界の外へ連れ出されても




また小さな世界へと閉じ込められた。






私には“自由”なんてものは存在しなかった





────実験体は所詮モノ。彼女はいつだってナニかに所有される────




願いが叶うなら
みんなで仲良く、怯えずに一緒に暮らしたかったな







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