「ベータっ!!!」

「博士!!逃げてください!!」


避難をさせられる私の前に現れたのは

艶やかな漆黒の髪がくすんだ金色になっていたものの………あのころよりはるかに成長をしたアルファだった

身長も私より頭一つは大きい

相手がアルファならば逃げる必要もないし……人間の護衛ならば彼には敵わないだろう。それは知っている。知っているから私は足を止めて青年になった彼を観察した


「どけぇえ!!」


案の定、アルファは銃を人では出来ない動きでかわした。幼少期よりも動きの性能があがってる……そんな風に感じる私はやはりもう科学者なのだろうか

そして護衛が廊下の奥に吹っ飛ぶほど情け容赦無く殴ると、


「ベータ…ベータっ!!」


彼はくしゃり、と顔を歪めて
今にも泣きそうな表情で私に抱きつき




「あ、る……」




私の唇を奪った。
後頭部を片手で押さえられ、逃げる以前に力が入りすぎていて痛い
すぐに唇は開かれて、アルファの舌が私の口の中に入ると私の舌も吸われて絡まさせられる

警報器が鳴り響く、廊下で
ただひたすら、久しぶりの再開を果たした彼と深いキスを交える。これはいったいどういうことなのだろうか

子供の時はもちろんこんなことはしたことない

考えたいが、情報も余裕も圧倒的に足りなかった


「……逢いたかった、ベータ」


しばらくそうし、息も絶え絶えになり彼の背中を叩くと唇はようやく解放された

代わりに荒々しく強く抱き締めらる


こんな風に人と触れ合うなんて、久しぶりだからどうしたら良いのかわからないが……とりあえず私からも軽く抱き返すとアルファは嬉しそうに笑った


「とりあえず話は後で。行こう?ベータ」

「…………どこに?」

「ベータを助けるのに協力してくれた、俺たちのアジトへ。掴まって口は閉じててね、舌を噛むと行けないから」


行かない、なんてことは言う暇もくれずに
アルファは私をひょいっと担ぐと今まで体験したどの乗り物よりも早く走り出した

それこそ動きが激しすぎて、口を開いたら舌を噛みそうなほどに

………もしかしたら、アルファはまた私が拒絶するのがわかっているからそんな風にしたのかもしれない


ぼんやりとそんなことを思いながら、私は彼にしっかりと掴まった







「おおおお!!ついに実験体二号も確保したぞ!!」

「やったな!!これであんなクソ実験は止めさせられる!!!」


色が溢れる世界の外
目が痛くなるようなカラフルなネオンを過ぎて、汚いビルの中に入るとこれまた様々な色の服を着た人たちは一斉に盛り上がった

正直、真っ白な世界であまり感情を表に出さない人たちに囲まれ続けていたから………凄く恐い


「ベータ、この人たちはあの研究所で犠牲になった人たちの家族なんだ」

「犠牲……と言うと受胎実験の母体に適用された人と、投薬実験に使用された人かな……」


たしか、あの研究所で人間をモルモットにしたものはその二つだけのはずだ

けれどアルファが逃げていくとき、あの化物は裏切り者に非常事態の毒殺スイッチを押されて死亡したらしくもう長いこと受胎実験はされていない

盛り上がる人たちをよそに、椅子に座ったアルファに手を引かれて膝の上に乗せられてまるで子供の人形遊びのように後ろから抱き締められると……こっそりと耳打ちをされた


「……やっぱり知っちゃったんだな。俺たちの出生について…ベータには、あんなこと知らせたくなかった」

「…私が知ったのは、まだアルファが居たときだよ」

「そっか……」


きっとアルファは私を守ろうとがんばったんだと思う
その扱いを嬉しく感じるも……先程から両手で抱きつかれて、ずっとほっぺ同士を擦り合わされてるんですが


こういう一般常識については欠落している自覚はあるが、こういうのは普通の兄妹がすることなんだろうか


「なぁあんた!!俺の嫁を知らないか!?あいつは……ロディはあの研究所にさらわれたんじゃないよな!?」


不意に
髭だらけの汚いおじさんが、目を血走らせて私に掴みかかってきた
掴まれた腕が凄く痛くて突然のことでうめき声が出る


「ボブ、ベータが痛がるから掴むのはやめて」

やんわりとアルファに助けられてまたギュッと抱き込まれながら
私は記憶のページを辿る

「……ロディ・シェルキー、ロディアン・セルライン、リルディ…」

とりあえず
愛称がロディになりそうな被検体の名前を上げて行くと盛り上がっていたその場が静まり返り、全員がこちらを向いた


「……ロディアン・セルラインだ…知っているの、か?」


泣きそうな彼には悪いが
私は書面上ならば彼の探し人を知っていた

「母体候補ロディアン・セルライン(23)。0538、母体としてコード00に支給。すぐに受胎活動は始めたものの子宮及び膣の裂傷により受胎不可能になり実験開始から31時間後実験中止に。ロディアン・セルラインは子宮の状態から最早妊娠は不可能と判断され0540焼却処分済み」


私の報告を聞くなりがくっと膝から崩れ落ちた男性は
あられも無くボロボロと涙を溢してから、私を睨みあげるとがっと掴みかかってきた


「焼却処分ってなんだよ!!あいつは化物に一日以上犯されて、壊されたあげく人間に生きたまま焼かれたのかよ!!」

恐い
強い感情が、恐い
こんな強い感情見たこともないから、私はどうしたら良いのかわからずアルファにしがみつく

聞いたから、教えただけなのに

その人はすぐに慌てた回りの人によって私から引き離されたけれど、彼はそれでも私に怒鳴っていた

「なんでそんなに知ってるなら、助けてくれなかったんだよ!!この化物!!お前なんか人間じゃねぇよ!!」

「……私は1206までただの実験体コードβでしかありませんでしたから、助けるとかそんな権限はありません」

「うるせぇ!!!化物!!」

結局
私はアルファに違う部屋に連れて行かれるまで、彼にずっと怒鳴られ続けた




これが世界の外なのかと、恐怖に包まれながら私は思った



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