“たすけて、たすけて”





『やめろ!!妖怪となんて!!』

『やめなさい、人間となんて!!』






“後生だから、誰か助けておくれ”






『俺は彼女を愛してる。だから彼女に全てを捧げる!!』

『私は彼と生きたいだから、二人で行きます』





それは貴重な幸せ“だった”過去…………






─────…──────

縄張りに誰ぞ入ったか
何かの気配を感じて、ぱちりと目を開く

………そして本能のままに障気を濃くし、ぎゅっと赤いそれを抱き込む


傷つけられないように
取られないように
壊されないように
私の全てを捧げた、愛しきソレを抱き込む



深い深い闇を眼窩に広げた赤いされこうべは
そんな私を呪うかのように虚空を見つめていた





人である彼を愛して
魂尽きるまで永久の契りを交わした。

愛している。愛している。今も昔もこれからも

『愛してるよ』

『私も愛してます』


妖は長命で、その情は人よりも深く重い
初めは人と妖のそんな違いは気にならなかった。私も彼も深く愛していたから




けれど



歳を重ね、彼の体に皺が刻まれ出すと
彼は変わらないままに変わって行った
人の感情は容易く揺れやすいとは聞いたが、まさか彼にかぎってそんなことが起こるなど思いもよらなかった


私しかいない世界を、彼は拒んだ



『この化物が!!』
『お前なんかに愛されたから!!』
『………死ぬ前に、皆に逢いたい……』




『なんで、こんな化物を……』



打たれ、罵られ、短刀で貫かれ

憎まれて、怨まれて

彼が生きた短い生の間で私が幸せだった時はほんのいっときしか無い。



けれど愛してる。
愛してるから、私はいくらでも耐えられる
私はそんな彼の行動を全て笑顔で受けた。私の全てをかけて愛していたから



「…………貴女が、“骸抱き”の妖さんですか?」


ふいに耳をくすぐった声に顔をあげると、そこには人でも妖でも無い生き物が立っていた
困ったように笑う生き物。彼の魂を壊されるのは困るが、それでもその生き物からは嫌な気はしなかった


「……私に何かようか?」

「貴女が、私に用があるんじゃないですか?」

意味のわからないことを言うそれに首をかしげる
けれどそれは私とされこうべを見て、あぁと納得したようだ







「貴女が助けてくれと叫ぶのは、彼のことですか?」

「な、んのことだ……」






「彼を、助けて欲しいんですか?」





彼を、助けて欲しいんですか





私は彼を愛してるから何の問題も無い。彼がどんなになっても魂が尽きるまで寄り添える



……………けれど




「たすけて……くれるのか?」



私を恨み憎み、離れたがった彼は
その命尽きても、輪廻の輪に乗ることも許されずに私に縛られている

魂が尽きるまでと、永遠の契りを交わしたから

彼は憎い私から離れられずそのされこうべの中に魂を閉じ込められて私と共にいる

辛かろう。憎かろうに、けれど私が逃れるすべもなく、また私から逃がしてやるすべもない


「私は貴女を助けに来ましたから」

「じゃあ、頼もうか」


されこうべを置いて
不思議な生き物の手を私の心の臓の上に当てる


「さすがに自らの命は絶てても、魂まで滅することは出来ぬからね……私の魂を欠片も残さずに滅ぼしておくれ。そうすれば愛しき人は私から解放される」


彼を壊されるのは、我慢ならぬが
私を壊してくれるならありがたい

だって、さすれば彼は私から解放される。これ以上愛しい彼を苦しめずにすむ


愛する彼の方を助けられるのは私にとって喜びでしか無い。たとえ私が滅したとしても

故に、人の形の生き物に対して笑いかけたがそれは嫌そうに眉間にシワを寄せよった



「骸抱き、貴女はいろいろと勘違いをしてませんか?」

「なにが、勘違いと?」

「貴女は、この魂の人を、助けたいんですよね?」

「左様。故に私の呪縛から解放するために、私を滅ぼしておくれ」


にっこりと笑いながら、愛しされこうべをなぜる。
彼と触れ合えるのもこれが最期と思えば寂しいが………それで彼が喜ぶのなら仕方のないこと






「彼は、そんなことは望んでませんよ?この魂はあなたと供にいることを望んでいます」




そんな風に、すっかり別れる気でいたから
阿呆なことを抜かす生き物に苛立ちが募った


「……戯言を。彼は最期は私を恨み憎しみながら逝った。そのようなわけがあるまい」

「本当ですってば。……あなた“達”を助けるにはこうするのが一番良さそうですね」


その生き物が私を無視し、されこうべに一枚の符を当てると








まばゆい光をはなったのちに





されこうべは、愛しき彼の方の姿へと変貌した



「さ…ぶろう、…さま…」


見誤ることなどあり得ない、愛しい人
幾年ぶりだろうか
彼を見るのは


込み上げる感情は、変わることがない愛
愛しさは涙腺を刺激し

ぽたりと涙をこぼすと………生身の肉体では無いものの、三郎様は苦笑いを浮かべながら私の雫を拭った



『……ごめんな、朱夏。お前が俺を嫌ったら、先に死んじまう俺との契りを解消出来ると思ったんだ』

ぽたり、ぽたり
止まらぬ涙を拭うのは追い付かなくなり
私はそのうち強く抱き締められた。愛しい愛しい彼の腕

契りを甘く見てた、と彼は溢した


涙を擦り付けるようにしがみついて、私からも強く抱き返す



『遺したく無かった。それが無理なら、魂なんて曖昧な存在じゃない新しい人を見つけて欲しかったんだ……』

「無理を、言い、ますなっ……わ、私がどれほど、三郎様を愛していますか…」

『ああ。無駄に傷つけて、ごめん。愛してるから消えたりなんてしないでくれ、朱夏』

「…はい。三郎様と供に居られる以上の幸せはありませぬ…」


優しく笑った彼と、口づけを交わす
─────そこまでしたとき、コホンとの生き物がわざとらしく咳払いをした



「誤解は、とけましたか?」

「はい。あらぬ疑いを向けてしまい申し訳ありません」

「いやいや、良いですよ。あなたたちを助けられたんなら。………とりあえず、彼の式神化は貴女の力が続く限り持続するようにしておきますね」


それは、つまり────
物言わぬされこうべでは無い、彼とずっと一緒に居られる


「っ…ありがとう、ありがとうございます!!これ以上の感謝はどう言えばよいのか…」


再び涙が溢れる
幸せすぎて、幸せすぎて、最早なんと言うべきかわからない


「………感謝の念があるならば、鬼子母神にどうぞ。あの方は全ての子の幸せを祈っていますから………お幸せに、骸抱きの鬼よ」



そう言い
私らを救った鬼子母神の使いは優しく笑い消えた



あとに残された、私と愛しき人






この世界には、これ以上の幸せなど存在しえない



『幸せ』







「……相手のために、自らの消滅を望む二人なんてなぁ。まぁ、俺も鬼子母神様のためなら滅べるけど」


種族や生死を越えてなお睦み合う二人
俺も早く鬼子母神様に逢いたいな



そんなことを思いながら 金色の髪を揺らして戻った



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