あの日
始めて皆藤と話してから



「ダーリン愛してるからここ教えて」

「帰れ」

「えっと35Pの訳なんだけど」

「…………お前、そこ昨日やったとこ」

「てへっ」



非常になつかれた
今までは見てるだけだった皆藤のバカ騒ぎに巻き込まれるようになっただけだが始めの頃はクラス中が俺に絡む皆藤を止めていた

…………だがそんな制止も皆藤には効かず


『さえぐっちゃんとは将来を近いあったから良いの!!さぁ私をフォー・ユー!!』

『いらねぇよ』


皆藤はグイグイ来て来て、来まくって
今や一番絡んで来るまでになった

とは言え、皆藤以外の奴等は相変わらず俺を遠巻きに見てるだけだが


さすがにここまで全力で、一番と言っても良いほどになつかれたら
………ちょっとだけ意識をする。

俺も男だし


だけど意識をして見ていたせいで俺は彼女のわずかな揺らぎを見つけてしまった


「あ、そうだ楓ー」

「ん?まさのりなぁに??」

「俺と恵美付き合うことになったから」

「マジカ!!私の愛人と下僕が!!」

「かーえーで、どっちが下僕なのかしら〜?」

一瞬。本当に一瞬だ。
びっくりしたその表情はいつもと少しだけ違って見えた
なのに皆藤はあくまでいつも通りで

…………だけどやたらその表情が気になった



だから放課後に首根っこを引っ張って空き教室へ連れ込んでみた


「何々さえぐっちゃん。は、まさか愛の告白とかダーリン!?」

「……どうした」

「え?いやどうしたのか私が聞きたいんだけど」

戸惑う皆藤にどう聞けば良いのかあまりよくわからない
わからないから


「……真木と西山が付き合ってるって聞いたとき、お前変だった」

「へ?通常営業だよ?」

どストレートに聞いてみた
するとやっぱり一瞬だけおかしな表情を見せてから普通に笑う

本当に一瞬だ
その後がいつも通りだから気のせいと言われればそうなのかもと思うほどに

「らしくねぇ」

ぽふ、とその頭にチョップをして
さっさと吐けと呟くとあの雨の日を彷彿とするような真顔の皆藤が姿を表した


「……正士が手伝ってって言ったから、くっつけただけだよ」

「………好きだったのか?」

「……私は友達にしかなれないみたいだけどね」


真顔で、ぽつぽつと呟いて
いつもの明るい笑顔は無い。けどきっとこれが皆藤の本性なんだと思う


「告りゃ良かっただろ。なにやってんだよ」

「……私は、皆が期待する私じゃないと……皆に嫌われちゃうから」


嫌われたくない
本当はみんなウザイって思ってるんじゃないか
騒ぎ立てて盛り上げることしか出来ないから
私にはそれしか存在価値が無いから
……こんな本性ばれたら、みんな離れる



どんどん泣きそうな顔になりながら
ついに苦しそうにその場にしゃがみこんだ皆藤
その前に俺もしゃがんで、頭を撫でてやると皆藤は声を殺して泣き出した



「……言ってないからだけど、正士は残酷だっ……」

そう愚痴を漏らす皆藤の方こそ残酷だと思う

あれだけ絡んできて、甘えてきて、あまつさえ俺には本性を見せてくれたのに

………他の男が好きなんてな


「後で笑うなら、胸貸してやんよ」

そう言っても皆藤は俯いて泣きながら首を振って拒否る

「お前がうざくなったら、気なんか使わずにちゃんと言ってやるから。いらん心配なんかしないで素直に甘えとけ」

皆藤はとことん臆病で
怯えているんだ。嫌われたくないと言いながらも他者の好意を信じられて無いんだ


手を広げたけど、やはり皆藤は来ない

けれど代わりに右手を掴まれて




皆藤は声を殺したまま、俺の右手にすがり付きながら泣き続けた


「う、うざくなっ、たら、い、言ってねぇ」

………ウザイよ。
あっさり俺を惚れさせたくせに、それに気づきもしないお前が


それでも今そんな憤りをぶつけたら、皆藤は壊れてしまいそうだから


詰められない距離を仕方がないから俺から詰めて、小さな体で泣きじゃくる彼女を抱き締めた…………







その日から、皆藤……楓はそれまでの日じゃないくらいに俺と一緒にいる
俺の側でふざけて笑って



俺は唯一楓だけを特別扱いしていて、回りの奴等にもそれはばれていたのに





演技が上手い楓は筋金入りの鈍感なのか、それとも暗に俺は異性としては見れないって言われてるのかわからないが



そんな『親友』な関係のまま月日は流れた




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