放課後の教室って なんか好きだ
賑やかな昼間のざわめきも好きだけど、それとは違う賑わいが好きだ
ブラスバンド部の合奏のBGMや、野球部の掛け声
たまに笑い声とかも聞こえてきて
窓から見える風景も………
目をつむり遠くの賑わいを聞きながら壁によっかかる
瞑想ってどう言うのかよくわからないけど、平日毎日やるこれは私にとっては瞑想みたいな効果があるんだと思う
これをやらないと、次の日は凄く気分が悪くなるし
静寂とはちょっと違う静かな賑わいを壊すのはいつも同じひとつの足音
「まな、帰るぞ」
「…………うん」
部活ほど長くなく
けれど大概の放課後を生徒会の仕事で一時間ほど潰す幼なじみ
それだけだった
ただ家が向かいだから、夕方の独り歩きは危ないから、時間が丁度良いから一緒に帰る
それだけだったのに
小さな小さな学校と言う閉鎖社会は
それだけを許してくれなかった
「まなちゃんと庶務さんって付き合ってるの?」
「……違うよ」
何度目だろうか、これを確認されるのは
男女問わずよく確認されるから分からない
ただ、男子にこれを聞かれると───
「俺、まなちゃんのことが好きなんだ。付き合ってくれない?」
ほぼ必ず、放課後の瞑想の時間を邪魔されるから嫌なんだ
「ごめんなさい」
けれどそれも、たまにある日常に過ぎなかった
また何事もなくこれからの時間が流れるんだと思っていた
放課後ぼーっとして
家に帰ってごはんを食べて
同じだと思っていた
「なんで?彼氏いないんだから良いじゃん」
けれど今回の彼はしつこかった
手を痛いくらいの強さで握って引っ張られる
それを拒むように力を入れて抵抗すれば、不機嫌になった彼が歩みより抱き締められた
「お試しで良いから付き合ってよ。満足させてあげるからさ」
「ごめんなさい」
満足も何も私は現状を満足している
平凡な日常を堪能している
むしろ彼と付き合うことによって日常が崩れるのが嫌だ
なのに
不意にアップになった名も知らない彼の顔
唇に当たる柔らかな感触
「な?付き合ってよ」
な?の意味がわからない
私は大人しそうに見えるから強引にすればなんとかなるとか思われてるんだろうか
「ごめんなさい」
だから三度目のお断りを述べると
目の前の彼が消えた
机を巻き込みながら騒音とともにぶっ飛んだ名も知らぬ人と、目の前に立つ幼なじみ
「────失せろ」
私からは背中しか見えなかったけど
明らかにその後ろ姿は怒っていた
ぱたぱたと若干まぬけな上靴の足音をたてながら顔面が歪んだ名も知らぬ人が立ち去ると
やっぱり怒っていた幼なじみに見下ろされる
昔は同じくらいだったのに、なんかズルい
「だから残るなら、書士さんがいる図書室か俺がいる生徒会にしろっていつも言ってるだろ」
「………嫌だ。教室が良い」
「教室だとああ言うの出たら抵抗出来ねぇだろ。…………キス、されやがって」
「それでも教室が良い」
賑わいは多分学校中で聞けると思うけど、
教室では教室でしか見れないものがある
「ったく、お前は頑固なんだから……」
はああああと溜め息をついて、散乱した椅子や机を直しながら
幼なじみはさりげなく言った
「だったらとりあえず付き合ったふりでもするか?そうすりゃ少しは虫たからねぇだろ」
「嫌だ」
そんな彼を見てから
目をつむり壁に寄りかかる
「ふりなら、嫌だ」
そして毎日見ていた光景を思い出す
窓の向こうに見える風景を
────生徒会室から、ちらちらこちらを確認する幼なじみの姿を
いつもより真面目な表情で仕事をする彼を見るのが好きだった
幼なじみは来年は生徒会に入らないと言っていたから、見れるのは今だけだから堪能したい
「…………とりあえず、」
不意に耳に入った声に目を開くと、近距離に幼なじみの顔
しっかりと目を合わせながら、交わされた口づけ
「まずは上書き。んで、付き合うか」
「……わかった」
『変わらない日常、変わる関係』
帰