「────お久しぶりです」


「……何しに来たんだい、この親不孝もんが」



ほんの数年の筈なのに
やつれ痩せ、日の大半を寝たきりになってしまったババアは
それでも貫禄のある睨みで、私を見た


もちろん、お婆様の後ろの父さんと叔母さんも私を睨んでいる



「跡取りがいなくなって、うちの主権を分家に明け渡す様を嘲笑いに来たんかい」


ほんの数年なのに
防人はあっけなく衰退した。逆に急成長を続けている私たちの会社はとっくに防人の会社よりも大きくなっている


もう、防人の本家はダメだと聞いた
分家を見下すから嫌われて、跡取りを養子に貰うことも出来ず

また完全なる政略結婚で愛が無い私たちの両親も幸宏の両親も子を作る気がないらしい

「それとも、そこん子をうちにくれるんかい?」

「まさか」



苦笑いを浮かべて、お出掛け用のベビーベッドであぅあぅと笑う娘を抱き上げる
毎日毎日、幸宏と紗枝が新しい服を買ってくるから新品の洋服と新品のよだれかけだ


思いがこもっているからか、それとも私が親ばかだからかわからないが、とても似合う


────甘い自覚はある
私がされたことを考えたら、このまま見捨てろって紗枝も幸宏も言っていた

でも、それでもさ


「可愛い娘ですから、あげたりなんかしないよ。でも……あなたの曾孫です。抱いてあげて下さい」


ここで見捨てたら、それこそ防人なんだ


やんわりと笑いながら、娘を差し出すと





傲慢で、色々な人の人生を狂わせた防人の当主は






「あぅ、うー」



恐る恐る、曾孫を抱いた

その皮がたゆんだ細い手が
震えているのなんか、見てないよ


「………小さいころん風実に、よう似とるな」

「そうですか?ちっちゃい頃の幸宏に似てると思いますが」


いつも厳しいことしか言わないしゃがれた声が
震えているのも気にしない



「…………いや、目元はお前にそっくりだ」

「でも口元は幸宏に似てるわ」


お婆様の後ろから、興味深そうに目元をなごませながら娘を見る二人は




もはや、ただのおじいちゃんとおばあちゃんだった



「父さん達も抱いてあげて。あなた達の孫なんだから」




嬉しそうに娘を奪い合う三人を見て、私や幸宏が産まれたときもこんなんだったのかなと夢を見る

そうなら、良いなぁ


「……まさか曾孫を抱けるとは思っとらんかった。そこは素直に感謝する。じゃが風実、お前は何しにきた?お前が大嫌いなこの家へ」

優しく優しく娘を撫でながら
それでも厳しく私を睨み付けるお婆様には



今までの貫禄は、すっかりなくなっていた


「……お願いがありまして」




「…………防人を…うちを吸収しに来たんか」



それでもやっぱり防人の当主な彼女に、思わずぷっと笑う
すると三人からギロっと睨まれたがまぁ気にしない。むしろ紗枝の方が怖い




「まさか、頼まれないならこんな家いりませんよ。ただ……」







「この子は私達に愛されて産まれてきた、みんなから愛される子です。だからおじいちゃんやおばあちゃん達にも愛して欲しくて……」









「私たちと同じようにこの子を、あまねを愛して貰えませんか?お婆様」





そう言えば三人は俯いた
情が無いわけ無いんだ。確かに非情には近いだろうが、それぞれが防人の家の犠牲者で今更まともな人に戻ることが出来なかっただけなんだ


けれど、防人はこのままじゃ潰れる


藁にもすがりたい気持ちだろう。だからそのためならある程度の形振りは構わない筈だ


“頼まれないならこんな家いりません”


それは反対から言えば頼まれればこの家を守ると言うこと。その代価は、三人が孫を愛すること



「……お前が、防人を……うちを守るっちゅーなら考えちゃろう」


あんなに喜んでいたなら、それを断るわけ無いよね?


「うちが吸収はさせてもらいますが、お婆様達が守り続けて来たものは出来うる限りその守ります。ただ人の意思を無視したものは今まで通りにはしませんが、良いですね?」



「あぁ、頼む」





『檻をとりこむ』





「よし、じゃあこの子には最高の旦那を見つけてやろうな!!」

「待ってください母さん、なにもそんなにすぐに嫁に出さなくても……」

「阿呆。無論婿じゃ。この子は家から出さん!!」

「あ、母さんあまねちゃんが笑ったわ!!」


「む!!あまね、もういっかいばーちゃんに笑っておくれ?」


「う、え゛゛えええええん」




まぁ
あまねがいやがらないなら、婿探しでもなんでもいっか


いやしかし勝手なことをして、家に帰ったら幸弘と紗枝が怖いなぁ




そう思いながらも
私の微笑みはつきることは無かった。




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