数年ぶりに逢うその人は、皺が深くなったり白髪が増えてたりしたが



「《志岐!!ビックリしたよ、太陽が目の前に現れたのかと思うほど美しい輝きの君に逢えたことを神に感謝するよ!!》」


まったく変わってなかった。出会い頭に抱き締められて、頬にキスをされたから私からも返す


「《先生こそお元気そうで何よりです。今日はお呼びだしありがとうございます》」


内心をこれっぽっちも出さない鉄壁な笑みを浮かべるが、相手だって世界を股にかける狸親父だ

一瞬でも気を抜けば食われるから、私は覚悟をしっかりと決めた







─────………






「はぁー……」


キィ、と門を開けて
屋敷に戻ってきただけで、疲れはてて服装も何もかも考えることを思考から破棄してその場にヤンキー座りをした


疲れた。いやもう疲れた。
朝一で空港に行ったのに帰宅したのは19:00過ぎだ。八つ当たりで晩御飯作りたいとか思っていたのに間に合わなかった



とりあえず、このまま厨房に行って
鮮度が良い卵や牛乳もあるし食べきれないほどのスイーツでも量産するかと画策する


メイドたちにもばら蒔き切れない数を作って、あまねちゃんにもあげて

『志岐お姉ちゃんありがとう』ってぐっじょぶ上目遣いされたい。はぐりたい


備品を補充出来るだけのポケットマネーも軽くあるし、明日の昼過ぎあたりにトミーに買い物の付き合いを頼もうか



「おい」

「……ああ、ただいま戻りましたー」


そんなとき
突然声をかけられてびっくりするが、なんとかいつも通りに返す


「坊っちゃんこんな夜に一人で外出したら駄目ですよー」


こんなに可愛い自慢の和樹坊っちゃん、拐いたく無いわけ無い
闇夜に屋敷の明かりを背にこちらを見つめる坊っちゃんを屋敷に戻すために重い腰をあげる

けれど行きましょう?と声をかけても
坊っちゃんは私を睨むだけだった



「飯、不味かった」

「はい?」

「だから今日の飯不味かった。やっぱお前が作るやつが良い……だから、辞めんなよ」






で、




デレきたあああああああ!!
や、ヤバい可愛いし。萌える可愛いはぐりたい
最近坊っちゃんのデレが増えたのはなつかれたからなの!?ちょっと可愛いんだけど!!



し か も さ



「兄ちゃん達もお前の料理好きだし、首になりそうなら皆で父さんに言ってやるよ……なんならあまねにも頼んで、あまねのお父様やお母様からも頼んでもらうし」


これって、これって





坊っちゃん、全力で私を引き留めてるよね!!!



「もう駄目……和樹坊っちゃん可愛い!!」


「ば、何すんだよ!!」


だからつい感極まって坊っちゃんを抱き締めると当然のことくもがく
けど、手加減してくれる坊っちゃんに調子にのってぎゅーっと抱き締める






「《雨の時は、貴方の優しさが太陽の代わりになるね》」






「は?」

ぼそりと
耳元でフランス語で呟くと、怪訝な顔をされる
そんな坊っちゃんにも萌えきゅんするけど、あまりしつこいと本気で怒られるから離れてぽんぽんと頭を撫でた


「まだ辞めませんよ。さ、屋敷に戻りましょうか」











「ヘッドハンティング?」

「そー。師匠が今度日本の一流ホテルでレストランを出すからそこのコック長をお願いしますねと、問答無用で」


化粧を落として、動きやすい私服になり
疲れたから早々寝ようかと思ったけど案の定トミーか坊っちゃんに聞いたであろう涼が自室に現れた


「まぁ師匠はフェミニストで女性に弱いから精一杯媚を売って誤魔化して断ってきたけど」

料理の腕も経営者としても超一流の師匠の唯一の弱点は


『女』だ

単なる弟子としては断れないが、まぁ化けてねだればなんとか



代わりに一日日本観光に付き合わされたけど

「………女性に弱い、って……」


途端に表情を曇らす彼に溜め息しか出ない。何を考えてるのかもろわかりだ



「《私の最後のダンスの相手は、この命尽きるまで貴方以外有り得ないのに》」


つい、フランス語で言ったけど早口で言ったからわからなかったに違いない
案の定首を傾げる涼を隣に座らせて完璧な執事服を崩すように膝枕を奪い取り目を閉じる


「近いうちに結婚するからって、断ったから。疲れたからもう寝かして」






『狸親父と女狐』







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