正直な話し、行きたくない
けれど行かなきゃ多分雇用主である旦那様経由でコンタクトをとってくるだろう


さすがに忙しい旦那様にそんなことはさせたくない



だから行くけど、本当に行きたくない


《志岐、素晴らしい君に素晴らしく最高な話しを持ってきたよ!!》


あの人がそう言うときは2割感謝で8割ろくなことがない


涼がまだ寝ているのを確認して、私服をつめてあるドレッサーの端から一番高いきちんとしたドレスワンピースを取り出す


久方ぶりに袖を通すそれはなめらかだけれど、気分までも浮上はしない
ワンピースを着たら、おとなしめな清楚な感じにメイクをして
髪にコテを当ててレディに化ける


最後にストールと、ヒールが低い靴と小さくて実用性が悪い鞄を準備する


時刻はまだ朝の6時。
涼は30分には起きるので、それより前に逃げなくてはいけない。…………でも



ベッドに腰かけて、未だに眠る彼の前髪をかきあげる
露になった寝顔は、眉間に皺がよってるせいでちょっと笑えた


「……頑張って戻ってくるからね」


寝込みを襲うなんてらしくない。されるのだって嫌だ
でも今だけは
今だけは、めんどくさいことをこなすための充電が欲しくて軽く彼の頬にキスをした










「料理長……どこ行くんだ?」

「おはよーございます坊っちゃん(ちょっと眠そうな寝ぼけまなこも可愛いですねもう抱き締めたい)」


玄関先で、トミーと小学校の制服に身を包んだ坊っちゃんに会い
一気に元気が充電された


ああもう可愛いなー
いつもは厨房にこもるから行ってらっしゃいなんて言えないし

「おはよう。それでどうしたんだよ、なんか綺麗な恰好して」

坊っちゃんに綺麗って言われた!!!!!!!!
内心もう抱き締めたいと思いつつも、門の前に私が呼んだタクシーが来たから名残惜しげに離れた


「解雇されたくないから、ちょっと色仕掛けしてきますね」




「は?」





『そして彼女は戦いに赴く』







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