ぎしり、と鈍い音を立てるソファーはここに越して来てすぐに買ったものだ
“長く使うんだから、妥協しないでしっかりしたものを買おう!!”
そんな理由で安月給だった俺の月給の半分もしたソファーは奇跡的に未だにへたることもバネがいかれることもなく現役だ
ただ少しだけ色褪せたり、摩擦で革がツルツルになったり、深く腰かけた時のきしむ音が使い込んだ歳月を物語る
このソファーに座って、テレビを見て映画を見て
怖がりなあいつが涙目で抱きついてきて、むらっとして押し倒したら鳩尾を殴られたのは今では良い笑い話だ
ソファーの右側は俺の定位置で
その隣はあいつの定位置で
その部分の革だけが、ツルツルと磨かれていったのに
いつしか俺の隣の席の革は、磨かれることはなくなった。
俺の席は軋むけれど、隣の席の軋む音はもう長らく聞いていない
二人でこのソファーに腰かけて何年がたったかな
一人でこのソファーに腰かけて何年がたったかな
今だから白状するけどな、俺の定位置にお前を座らせなかったのはな
じつは結婚してすぐにタバコの火を落として小さな焦げ痕が出来ちまったからなんだ。そのこと、最後までお前に隠せたかな
「ひーじーちゃん?あれれどうしたの?ねんねー?」
『軋むソファーに背をあずけて』
定位置に座って目をつむる
娘も孫も、ひ孫も大きくなったし
────もう二人がけソファーに一人で座らなくても良いよな
「ママー!!大変大変おっきいじいちゃん起きないの!!」
上にはお前のお気に入りのソファーを持っていけないけど、許してくれよ
“長く使うんだから、妥協しないでしっかりしたものを買おう!!”
ああ、本当に長く使ったな
帰