この状況を一言で言ったら

あー、どうしよう

そして私のやるべき事はただ一つだ。
早く帰らないと六花が暴走しちゃう……



薫風と共に色鮮やかな花びらが舞い上がるのが格子窓の外に見えたけれど、溜め息しかでない

ほんの一瞬の油断で、少しだけ外の空気をすっていた私は


『やっと捕まえたわよ!!』


羽衣に巻き取られ、無理矢理桃源郷に拐われた。犯人は言わずもがな西王母様の御息女だ



「……申し訳無いけど……本当にごめんなさい」


前回捕らわれたおりは、なんとか話し合いで納めようと我慢したけれど
今はあの時より六花の愛情も狂気もパワーアップしている。早く、早く帰らないとどうなるかわからないから


そう思い、ふわりと風手紙を格子の隙間から外に送る



六花では男子禁制の桃源郷に入れないし
翁では見返りに何を求められるかわからない



頼りになるのは、たった一人だった












「申し訳ありません、私の方が銀さんとは先約でして」

「いえ、こちらこそ度々銀殿には御迷惑をおかけしまして……」


顔面蒼白の御息女の隣で、深々と頭を下げる西王母様を見るとこちらのほうが謝りたくなる


むしろ、こんな些末なことに関係無い利虎様を巻き込んでしまってどうしよう。あわててやったけことだけど
私の切り札であり、助けに来てくれた友人の利虎様


彼女は私よりも二つも上の世界の、TOPクラスの方なんだよ……


「以後はきちんと銀さんの意思を汲んで差し上げてくださいね?では失礼します」



行きましょう?と柔らかな笑顔で手を引かれ宮殿をあとにする


と、



不意に利虎様はくすくすと笑い出した
ただそれだけなのに、回りの花々が劣って見えるほど彼女は可憐で可愛らしい……同姓だけど、見惚れてしまう


「り、利虎様?」

「銀さんにに頼られるのってなんだかくすぐったいですね」

「あ、申し訳ありませんでした。こんなくだらないことに巻き込んでしまい」

「いえいえ。私にとって銀さんは妹みたいなものですから気にしないでください……それより」


私より可愛くて幼げな利虎様に妹とか言われてきょとりとしたけれど、そうだこの人見た目と同じ歳じゃ無かった…



「西王母様に先約って言っちゃったから何かしないといけないので、せっかくだからこのままうちに遊びに来ませんか?御主人様と一緒に」





あなたはなんでさらっとそんな爆弾発言をするんですか



そんなこんなで
私は誘拐されたその足で神界に連れていかれた









下位の界の者が立ち入るには厳重な審査がいる神界も
利虎さまがいれば待つこと無く入れてもらえて


やはり彼女は凄い方だったんだと罪悪感で肩身が狭くなったそのとき



今までふわふわ笑いながら話していた彼女が



「っ!!!!!」



ぶっとんだ


「り、りこさま!?」


立派な屋敷の入り口にあった柱にへばりついて、真っ赤になりながらもじもじする彼女は可愛らしい。可愛らしい、が


な、何があったの…?


「ど、どうかしましたか?」

「す、すみませっ……し、銀さん…か、かわい、可愛いうちの、け、毛玉を保護してもらえませんか…」


「毛玉…?」


言われて家の中を見れば、
屋敷の中から子猫と、二つの毛玉がよたよたと歩いてきていた
言われるがままに子猫と毛玉…小さくてわからなかったけどうさぎだった…を抱き上げると、子猫はみぃみぃと泣いてじたばた暴れ必死に利虎さまに助けを求めている


「大丈夫だよ」

よくはわからないけど
ぎこちなくなりながらも笑って、子猫もうさぎも撫でてやるとしばらくして子猫は不満そうに尻尾をぱたぱた揺らしながらも大人しくなった


……可愛いなぁ


「ありがとう、ございます……あれ、亜虎があまり抵抗しないなんて珍しいですね」


そういう利虎様は決してこちらを見ない
どうしたのかと不思議に思う
だって私が知る限り利虎さまはいつだって堂々としているから



「そうなんですか?って、利虎様どうしたんですか?」

「……恥ずかしながら、我が子だからこそうちの子達の愛らしさにまだ慣れなくって…」








え、






我が子?







利虎様=とてもとても偉いかた
私が抱いている小動物=利虎様のお子さん







理解した瞬間、子供たちを抱いてることにゾッとしたのは秘密だ

















「それで、旦那様はどんなかたなんですか?銀さんの大好きな人なんですよね?」

「え、と…」


使用人らしい人が子供たちを連れていくと利虎さまは悲しそうに悲しそうにしながらも、復活すると今度は座敷でふわふわした笑顔でそんなことを聞かれた


なんというか



仕事をやめてからそんなこと聞かれるのはもう随分久しぶりのことだし。しかも悪意なしの純粋な好奇心とか



利虎様には、嘘つけないし


だからと言って、六花に言わされるときとは違い自ら『好き』なんて、そんなこと……言えないけど、


でも利虎様には、嘘つけないし


ぐるぐる回って、恥ずかしくて赤くなって俯いて



「子供みたいに、可愛い人です」


ぼそぼそとこう言うのが、もう本当に限界だった
そんな私でも利虎さまはニコニコするばかりで、そんな反応されたことがないからこそばゆい

でも、


なんだかこんな事も悪くない



「銀さんの旦那様は知りませんがいい人なんでしょうね。彼のおかげですかね、銀さん出逢ったときよりとても可愛らしくなりましたし」

「そ……その節は御迷惑をおかけしました」


「え?あの時の銀さんも今の銀さんも好きですよ?ただちゃんと甘えられる人が出来たんだなって喜んでるんです」


ふわふわと笑う様は本当に愛らしいのに
言動はまるで姉の様に純粋に私を思ってくれるのがわかって、ふっと体から力が抜けた




そうだ


この人はいつだって立場も種族も越えて優しくしてくれていたのに

なにを私は緊張しているんだろう



「利虎様」

「なんですか?」

「ありがとうございます」





心のそこからの謝罪をすると
姉のような彼女はふわりと笑った
そしてようやく私もつられて、自然と笑い合うことが出来た────















『………良いものが聞けると思いますから、ちょっとだけ盗み聞きしましょうか?』


私を迎えに来た神界の青年はにっこり笑って、襖を開けないけれど
正直私は今すぐにでも開けて銀を抱き締めたくて仕方がなかった



銀が拐われたと彼から聞き、どれほど心配したか
銀を失うかと思い目の前がまた真っ暗になった



だがしかし彼は銀を保護したと言い私を神界に連れてきた
早く返して欲しい
私の彼女を

そんな私の急くような欲求を止めたのは、襖の向こうの彼女だった



『……六花は、甘えることが苦手な私を大切にしてくれるんです』


「……?」


『銀さん本当に幸せそうでよかった』

『幸せ、です。大好きです』










声だけで、
銀が本当に嬉しそうに話をしているのがわかる


そんな彼女の話し相手に妬かなくもないが









それでもそれ以上に身体中に幸福が満ち溢れた



「ではそろそろ参りましょうか」



そういう青年はいつの間にか子虎と子兎を抱いていたが正直そんなのはどうでも良い



「そうですね」



先ほどの狂いそうなほどの渇望とはまた違うけれど

それでも私は、
愛する彼女にあいたくてしかたがなかった……







『災い転じて福となる』









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