「貴女は将来、王妃様になるのよ」


母の膝の上で
本を読んでもらったとき

寝る前に頭を撫でられたとき


私はいつだって、そう言われ続けたけれど




私は、あんな恐い男の子のお嫁さんなんて嫌だった

「ねぇペーター。いつかあなたが御伽の世界へ連れてってくれないかなぁ」


バルコニーでお星さまと、食べかけのクッキーみたいに欠けたお月さまを

大好きなうさぎさんのぬいぐるみを抱き締めて、毛布を被って見上げる


「それとも、あなたが私の王子様なのかな。『おおシルル、迎えに来ましたよ』わー!!ペーター王子だいすきー!!」


両手でペーターの手を動かし、一人二役で小さなおままごとをする
それが無性に楽しくて、しばらくペーターとお姫様ごっこをした─────…………
















それから10年。
年下の私の成人の義に合わせて、私が嫁ぐことは


私が産まれた時から決まっていた









でもね




お父様、お母様
親不孝を働く私をお許しください





まんまるお月様が綺麗な綺麗な夜
私はお金と、ペーターだけを抱き締めて屋敷を飛び出した




「だっていつかペーターが御伽の世界へ連れてってくれるもんね?ペーター」


『この子はシルルを幸せにしてくれる魔法がかかってるんだよ』



ペーターはおばあちゃんがくれた、魔法のうさぎさん
ペーターは私を幸せにしてくれる
でも、でもね




まだペーターが連れてってくれないから
私は、時間稼ぎに家を出た


だってあのままじゃ来週、結婚させられちゃうもん




御伽の世界では、シンデレラとか白雪姫が幸せに暮らしてて
私はきっとうさぎの王子様のペーターのお嫁さんになるんだ

それはいったい、どんな幸せな世界なんだろう



『3女帝』
実り・行動・月日の長さ・未知なるもの






彼女を見守るのは、まん丸の月と兎の人形の赤い瞳だけ



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