いつまで経っても俺をスルーし続ける小春に苛立ちが募り、未だ執事長と言い合う志岐さんに声をかける。
「なぁ、志岐さん」
「はいはい、何でございましょうか?」
執事長に対しての辛辣な態度とは違い、俺にはしっかりと笑顔を向けた彼女へと口を開いた。
「その服ってどんなやつ?」
「なっ…鈴樹さま?!」
「えーっとですね、小春さまはまだお若いですし、もう少し露出のあるお洋服を召されても凄くお似合いになると思うんです」
…露出。
「それに、ほら。大人の色香も増すといいましょうか」
…大人の色香。
ちらりと小春に目を向けても和樹と仲良さそうに話すだけで俺の視線には気付かない。
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「志岐さん」
「はい?」
「アイツ連れてっていいよ」
「なっ…いけません、鈴樹さま!志岐、あなたもわかってるでしょうね?!」
「えぇ、何でぇ?鈴樹さまがいいって言ってるんだからいいでしょ?」
再び言い合いを始めた二人をそのままに小春へ声をかけた。
「小春」
それにすら応じない小春に更に苛立って思い切り肩を掴んでやればようやくその視線がこちらに向けられる。
「うん?何?」
「お前今から着替えてこいよ」
「は?意味わからんし」
「お前志岐さんに頼まれた時に頷いただろ。あまねも着替えたとこ見たいだろ?」
「はい!見たいです!」
あまねを使うのは躊躇われたがこの際仕方ない。
大きく溜息を漏らしながら「…わかったわ、」と零した小春にいつの間にか隣に来ていた志岐さん同様ガッツポーズを決めこんだが、それは小春の次の言葉により態勢を崩す事となった。
「まぁ、あまねちゃんに言われたら仕方ないわなぁ」
その言葉に和樹や執事長、あまねにすら哀れみの目を向けられて。
志岐さんに至っては何故かキラキラとした目を向けられた。
そのまま志岐さんと共に部屋を出た小春が時間を置いて戻ってきた時。
思わず言葉を失ってしまった。
「大人の色香たーっぷりの小春さまでーす」
そう言って楽しそうにする志岐さんの隣でひたすら面倒臭そうに視線を落とす小春。
普段よりもしっかりと施された化粧と露出の多い服。
気怠げな表情は更に大人っぽい雰囲気を醸し出している様で。
「ほら、小春さま!鈴樹さまが釘付けになってますよ?!」
「どうでもええわ、そんな事」
溜息を漏らす小春はやはり普段通りの小春で、そんな事に少し安心を覚えた。
そして気付く。
露出が多い。
部屋の中には俺を含め男が三人。
皆それぞれに婚約者が居るとはいえ。
頭で思うと同時に動いた体は一目散に小春へと飛びついていた。
「お前ら見んなよな!」
「小春さま!鈴樹さまが独占欲丸出しにされてます!」
「…せやから面倒臭い事になるでって言うたのに」
行動すら予測されていた事に複雑な気持ちが湧き上がるも、腕の中に居る小春は確かに普段よりも綺麗だから。
「…お前みたいのでも露出多けりゃ男は見たくなるんだよ」
「ほなもう着替えてくるから上からジロジロ見るんやめてもらえるか?」
とりあえず。
志岐さんに頼んでこの服は持って帰ろうと思う。
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