ききぃ、とタクシーが止まると
私が見慣れた建物の前についた


「はい、あまねちゃん着いたよー」

「え……ケーキ屋さん?」











『むっさん材料持ってきてー』




『そうそう、上手だねー』












『ぎゃああああああいやああああああ』





─────……………。














料理長に指示されて来たのは、一件の小さなケーキ屋さんだった
そこの扉を開けて中に入ると……………背筋に寒気が走った


「あ、あまねさま…?」


「えへへ、いらっしゃいませ和樹くん鷺田さん」


ふりふりのエプロンを来た
嬉しそうに笑う店員に扮したあまね様



あの人はいったいなにをさせているんですか!!!!



「あまね!!無事だったのか!!」

「うん、和樹くん。あのね…こ、これクリスマスプレゼントなの。あのね、和樹くんに内緒でこれ作りたくてお姉ちゃんに無理言っちゃったの。だからしきお姉ちゃんのこと怒らないで」



そう言って彼女が差し出されたのは可愛らしくラッピングされたパウンドケーキ
……先手を打たれてしまい、これでは私も坊っちゃんも志岐に強く言えない。


けれど良かったのかもしれない
坊っちゃんは志岐をクビにしかねない勢いでお怒りだったから



「………今度から、せめて一言いえよ。何も言わなかったら心配するだろ」

「……ごめんなさい」

とりあえずあまね様の無事を確認して、胸を撫で下ろすも主犯がいないのはどういうことだ



「いらっしゃい、なにをお求めでー」

そう言いながら厨房から現れたのは



……………彼女にとてもよく似た男性。これはもしかしなくとも……


「あ、睦月お兄ちゃんお迎えなの!!」

「え、マジか。ねーちゃーんお迎えだってよ」

『もうこんだけ作ったんだから良いでしょ!!』

『あとノエル30個作ってけ』

『迎え来たって言ってんでしょぉぉぉぉ』

『この忙しいクリスマス時期に帰ってきたお前が悪い』



厨房から聞こえた断末魔は
とても聞き覚えのある声だった



「はいあまねちゃんって……あら、もうお迎えなの?」


そしてさらに現れた女性の手には可愛らしいカチューシャが握られていた。



…………



「初めまして、志岐さんの御家族で宜しいですか?」

「あ、はい。志岐の母親の凛と申します。この度はうちの馬鹿娘が御迷惑をおかけしまして」

「いえ、彼女もお嬢様のためにしたことですから。私は志岐さんと結婚を前提にお付き合いさせて頂いてる鷺田と申します」


そう言い、ぺこりと頭を下げると
女性と弟さん?はポカーンと私を見上げ、上から下まで服装をがっつり見てから


「父さんやべえ!!志岐の彼氏が来た!!堅そうめんどくさそうなおっさん!!」


『ちょ、何かってなことしてんのよ!!』


「駄目よ睦月、おっさんとか難しそうな歳の人に言っては」



厨房に叫んだ。
おっさ…
…………まだそこまでの歳では無いと思っているんですが

『志岐……カサンドラも20個作っとけ』


『ちょ、ふざけんな!私だってあまねちゃんのふりふりエプロン見たいんだから!!』

『昔お前が着てたやつだからデザインわかんだろ。そこから妄想しとけ』



そして厨房から現れた白髪混じりの壮年の男性は私をジッと見てから






「お前に志岐は合わん。やめておけ。だいたい歳の差いくつあると思ってるんだ」



そう結論づけた。けれどこれくらいで諦めきれるほど私の思いは生易しくない



「二つです。そう言われても私も本気ですから、お許しいただけるまで通わせて頂きます」







『何勝手なこといってんの!!むっちゃんちゅーしてあげるから手伝ってえええ』

『ちゅーはいらねぇ。てかなんでそんな叫びながらでも綺麗に整えられんだよ』

『経験の違い』







────……。










「つかれた……あのおっさん人使いが荒すぎる」


「自業自得ですが……お疲れさまです」




何だかんだで空気に呑まれはしゃぎ疲れた二人を後ろに寝かせ
すっかり夜がふけた道を屋敷に戻る



お義父さんもなんだかんだで『悪趣味だな』と言いながら認めてはくれた

………その間彼女は延々とケーキを作らされていたが、私としてはその方が好都合だった




不意に
視線を感じて信号待ちの間に横を向くと
志岐はいつもとは違う優しげな笑みでこちらを見ていた





不覚にも、どきりと心臓が跳ねる






「どうかしました?」


「三点。その服、どうせ紳士服屋で買ったでしょ」

「えぇ、あそこのモールでわかる店がそこしか無かったので」

「まるでおじさんの私服だもん。そんなんでオールバックのままだからおっさん言われるんだよ」


なにがおかしいのか、くすくすと思い出し笑いをする彼女は可愛らしいが
少しだけ、気分は良くない



せっかく着替えたのに、彼女までおっさん扱いをするのか


「……貴女は服装が若いですよね」

「失礼な。まだ若いよ」

「私だってまだ若いです」

「私はこっちの方が似合うと思うけどなぁ」


そう言った彼女の手がのびてきて
くしゃくしゃと私の髪を乱し前髪を作る

全く、この後にも仕事があると言うのに







けれど
あまりに楽しそうに彼女が笑いをこぼすから
なんだか私まで楽しくなってくる




「仕方がないから今度は私が見立ててあげるよ」


「……今度?」


「そ。また一緒に行こうね……今度は二人で」


「…………はい」




『天使は私に微笑んだ』完



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -