「どうも初めましてこれから宜しくお願いします」
「あ、御世話になります」
第一印象は明るくてあっけらかんとした人で
彼女は弟妹が多いらしく、姉気質で庶民育ちらしいほがらかな人だった
少しの無作法も、明るさと人柄でカバーしすぐに教育されつくしたメイド達を初めとした使用人たちと仲良くなり
また外食ばかりで家で食事をしない御主人様と奥様に栄養の大切さを語り気に入られた彼女はうちに来てから一月でうちの屋敷に馴染んだ
私は、父が御主人様の会社の部下で物心ついたときからこの屋敷に仕え
彼女曰く、カチカチに固い人間らしいので
自由で明るくて優しい彼女に、すぐに惹かれた
「はーい、執事ちょーさま今日もご苦労様でーす。リラックス出来るハーブティーと夜食にばっちしなココアクッキーを持ってきてあげましたよー」
「また君は……ノックはしなさいと何度言ったら良いんですか」
「あははー、大丈夫大丈夫。旦那様のとこではちゃんとノックをしたから」
深夜なのに、迷わず私の部屋に入りデスクの隅の方にティーセットを準備しだした彼女
仕方なく、ペンを置いて一息つくと彼女はデスクに寄りかかり書類を一枚手に取り顔をしかめた
「旦那様も執事ちょーさまも、坊っちゃん達も。ホント、夜遅くまで頑張るよねぇ」
「……坊ちゃま達も起きてらっしゃいましたか?」
「うん、勉強してた。そっちにはココアとマフィンを差し入れしといたけどホント、よくやるよねぇ。こんな数字の羅列ワケわかんないや」
「君こそこんな夜食などは労働外でしょう。使用人達にも夜食などを提供していると聞いてますが……よく予算内で収まりますね」
「そこはまぁさ、高級食材ばかりが良いものとは限らないし。安くても良いものはあるから」
と、彼女は言っても
実のところ予算内で収まっていないのは知っている
ココアや小麦粉など、わかりにくいものは彼女のポケットマネーから出しているのを私は知っていた
何しろ帳簿の管理は私なのだから
無論、分かる範囲で彼女が使った食材費は彼女の給金に回して返してもいるが
「……ありがとうございます。本来なら夜食の配膳などは私がすべきでしょうに」
「あ、良いよー。どうせ私は飯時以外は暇だし」
暇なものか
屋敷で働いてる使用人30人あまりの全食事の管理は、忙しいはずだ
それなのに彼女はあっけらかんと笑う
そこを突っ込めば、朝食の仕込みのついでだとでも言うのだろう
どこまでも気回しの上手い方だ
これでデスクワークも出来るのなら、是非とも補佐に回って欲しいくらいに
「ほら、執事ちょー様はまだ仕事するんでしょ?ならもうちょっと食べてよ。残したら私の肉になるんだから」
「………君はもう少しふくよかになっても良いと思いますが。食べてるんですか?」
「常時つまみぐいを少々。ま、ちゃんとバランスよくつまんでますよ。あと味見とかあるからね、あまり満腹状態にはならないようにしてるんだー」
つい、
ナイトウェアに包まれた彼女の腰をつまんでしまったのは、私も深夜で疲れて彼女の持つ無礼講な空気にやられていたのかもしれない
普段の私ならば、そんな失礼なことは絶対にしない
「ちょっと執事ちょー、そこ掴んだら肉がばれるでしょ。このやろー」
あははは、と明るく笑った彼女が眩しくて
仕返し、と私の頬を摘ままれるのも気にならなくて
欲しい。彼女が
自由な彼女が、欲しくてたまらない────……
細い、腰を引き寄せて
僅かに目を見開いた彼女に口付けて
そのまま、勢いで私は彼女を抱いた。
「……気持ち、良いですか?」
「ん、はぁ……ちょ、ま、久しぶりだか、んぁっ」
僅かに戸惑う彼女に強引に唇を重ね
じっくり馴らしたそこに性器を入れる
避妊具などは無かったけれど、もし子ができたとしても構わないとすら思わされる快感
愛しかった。彼女を手に入れたと思った
けれど、
翌朝、目覚めると彼女はすでに居なく
厨房の様子を見に行くとまるで夢だったのかのように、けろっと笑って挨拶をしながら料理を作る彼女がいた
「まぁ、仕事仕事じゃ溜まりますからねー。気にしないでくださいよ」
いや、むしろ気にしてほしいのだけれど
そうは思ったものの、無かったことに出来るほどなんとも思われて無いことを痛感し
その日から私たちのいびつな関係は始まった
『婚約者〜SIDE使用人〜いびつな関係』
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