「わぁ」


まぬけな声を出して
びちゃ、と傘を手放して転んだあまねに俺は慌てて駆け寄った


「なにしてんだよ。どんくさいなぁあまねは」

「ご、ごめんなさい」


あまねん家の門から、玄関までの道のりでこれだ
今度から運転手には玄関までつけてもらおうと思いつつ

俺の傘にあまねをいれて立ち上がらせる



制服は雨水や汚れでぐっちゃぐちゃだけど
何よりも申し訳なさそうに泣きそうなあまねを見てたら、それ以上叱れなかった


「ほら、早く家に入って風呂に入るぞ」


ごしごしと、ハンカチで顔の汚れを拭ってやるとあまねは涙をぐっと堪えてよたよたと自分の傘を取りに行こうとするから

ぐいっと手を引いて先に家の中に連れ込んだ




傘より自分だろ!!なに考えてんだよ













「ほら、さっさと脱げよ」

「え……は、恥ずかし「早くしろ」」




どうなってんだ、この家は
娘が帰っても使用人が誰一人出迎えない。前に父さんとともに挨拶に来たときは大勢いたのに


あれか、
あまねが誰にも出迎えられないのは通常なのか。ふざけんなくそ使用人、しょくむたいまんだぞ


恥じらうあまねの服を脱がして、汚れた小学院の制服を籠に入れ
俺も服を脱いで一緒に入る



「ったく、本当にあまねはどんくさいんだから」


浴槽に湯を溜めながらもたもたと体を洗うあまねが見てられなくて、結局俺がゴシゴシと身体を洗う
そんで、全身洗い終わったら俺もあまねと一緒に浴槽に入った


「ごめんなさい、和樹くん」

「ふつー、よめがだんなをささえるもんだろ?なんで俺があまねを支えてんだよ」

「……ごめんなさい」

「いいよ。よめくらいささえてやるよ。だけどあまねもちゃんと努力しろよな?」

「う、うん!!」


ようやくへらっと笑ったあまねの頭を撫でて
ちょっと行儀が悪いがタオルに空気を入れて水の中に入れて、泡をぶくぶく出すとあまねは妹達みたいに嬉しそうにはしゃいだ



と、そこに
ようやく俺たち以外の人物がこの家に来て初めて聞こえた




「お嬢様ー?帰ってらっしゃるんですか?今日のおやつはもうクッキーしか無いんですが、良いですよね?」



“もう”クッキー“しか”ってなんだ
そのまま返事をしようとしたあまねの口を塞いで耳元で囁き、次の言葉を指示する

あまねは戸惑いながらも渋々と頷いた


「なんでクッキーしかないの?」

「すみませーん、今日の休憩の時に皆で盛り上がっちゃって」


喰ったのか。家人に出すものを喰ったのか。
あまねなら許すだろうな。へらへら笑いながら








だが生憎、俺はそんな無礼を許すほど出来た人間じゃない
金貰ってんなら、きっちりと働けよ!!!!



「ふざけんな!!それが使用人の態度か!!このことはあまねの両親とうちの両親にきっちり伝えさせて貰うから!!」

「えっ!?お、お嬢様、お客様がいらっしゃるんですか!?」

「か、和樹くん良いの」

「良いわけねぇだろ!!お前は屋敷の主の娘だぞ!!」



そのままぶちギレした俺は
服を着てさっさと出ると、あまねの部屋を突撃し


あまねのベットで休んでいたバカ使用人を蹴落とし
調理場で詳しい話も聞いて



あまねの両親に事情を話し、怠慢をしていた使用人達を速攻で解雇してもらった


「か、和樹くん……」

「全く、しっかりしろよ。これからは俺が守ってやるからな」




この日から俺は
用事が無いときはあまねの家に寄るようになった


また、あまねが両親の帰りが遅いのを良いことにあんな粗雑な扱いをされたりしないように


「………ありがとう」


ふにゃりと見せた嬉しそうな笑顔


この笑顔を守ろうと
俺は11歳の時誓ったんだ



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